円安が急速に進んだことで、「悪い円安」論に注目が集まっている。円安は日本経済にとって追い風になるというのがこれまでの通説だったが、今回はそれとは真逆の反応となっている。
理由の1つとされているのが、製造業の現地生産化による相対的な輸出の減少である。現地生産化によって円安メリットが減っているのであれば、生産拠点を日本に戻せばよいという見方も出てくるかもしれないが、そう単純な話ではない。
日本の製造業は1990年代以降、コストが安い中国や東南アジアに生産拠点をシフトしてきた。2020年度における日本企業の海外生産比率は22.4%となっており、90年度(4.6%)と比較すると大幅に増えている(内閣府調べ)。海外生産比率が上昇すると、日本からの輸出が減るので、円安のメリットを享受しにくい。
理屈上、日本国内に工場を戻せば円安による業績の拡大効果が期待できるはずだが、企業が生産拠点を再度、国内に戻すのは容易なことではない。生産拠点のシフトはサプライチェーンの再構築に相当するので、かなりの時間と手間がかかる。円安が完全に定着し、しかも今の水準よりさらに安くならないと企業は決断しにくいだろう(筆者の試算では少なくとも1ドル=150円程度でなければ大きな利益は得られない)。
生産拠点の海外シフトが進む一方で、実は日本の輸出に占める国産品の比率は現在でも高く推移している。日本の輸出に占める自国付加価値の比率は約83%であり、ドイツ(約77%)、韓国(約68%)、台湾(約60%)と比較するとかなり高い。日本は海外に頼らずに工業製品を輸出できているわけだが、それにもかかわらず、なぜ日本経済は円安のメリットを享受できないのだろうか。
低付加価値が最大の原因
最大の理由は輸出企業の競争力低下である。世界の輸出に占める日本企業のシェアは90年代以降、大幅に低下しており、製品単価も下落が続いた。経済産業省の調査によると、日本企業は市場の伸びが小さい分野でのシェアが高く、欧米企業は市場の伸びが大きい分野でのシェアが高いという特徴が見られる。つまり日本企業は、市場が伸びておらず、しかも価格を下げないと販売数量が伸びない製品(つまり付加価値が低い)を手掛けていることになる。