留学制度だけではなく、地域の専門家を育成するための独自のリージョナル・スペシャリスト・トレーニングを実施しているのがサムスンエレクトロニクスだ。
「世界の各地域の専門家を育てるために特定の国に1年間派遣します。30代のアシスタントマネジャーやマネジャークラスを対象に異文化を経験させるのが目的です。形としては海外駐在員ですが、その間に業務を行うことはありません。あくまでその国の人たちと交流し、文化に慣れるのが目的。その後、実際にその国に仕事で派遣されたときには、異文化経験のない社員に比べて容易にその国になじんで仕事をすることができます」(李教授)
10年はロシア、中国、ラテンアメリカ、中東、日本、インドなどの各国に161人を派遣している。これまで派遣した社員の合計は3812人に上る。仕事抜きで現地の人たちとの交流を通じて文化に触れさせる。当然語学も覚えることになる。グローバル人材の養成にサムスンがいかに力を入れているかがよくわかる。
韓国の人口は約4900万人。日本の4割弱の市場しかなく、韓国企業の海外売上比率は高い。LGEの海外売上比率は85%を占め、当然ながら多くの社員が海外で活躍している。だが、韓国人以外の現地の有能な人材を登用し、グローバル規模で異動させる人材マネジメントは日本企業と同様に進んでいるとはいえない。
李教授は「LGやサムスンにはグローバルに異動させる制度はあるが、現実には海外拠点のトップクラスや海外駐在員の国籍は韓国人が大半を占めている」と指摘する。その理由の一つとして通貨危機後の変革からまだ10年足らずであり、現地のマネジメント人材が十分に育っていない点を挙げる。もう一つは前述した「集団主義」のカベである。
「通貨危機を境に20~30代の若い社員は欧米寄りの考え方をしていますが、40代後半以降の世代は以前の韓国や日本のように年功序列や韓国人で固まるという集団主義的な古い考え方を持っている人が多い。したがって成果主義を取り入れていて、若くても飛び級的に昇進することは理論的には可能ですが、現実の運用では難しい面もある。成果主義に基づく評価を巡り、海外の拠点でも世代による考え方の違いで問題になることがあります」(李教授)