じつは韓国企業ももともとは終身雇用や年功序列に基づく内部昇進制の文化であり、日本的経営をお手本にしていた時期もあった。それを大きく変え、現在のグローバル化の素地を形づくる契機となったのが97年のアジアの通貨危機だ。デフォルト寸前まで追い込まれた韓国経済にIMFが介入し、財閥解体や雇用規制の緩和をはじめ韓国企業の経営構造を大きく変貌させた。

それは人事制度にも及び、李教授は「日本の制度からアメリカの制度に移行し、韓国企業の人事制度は日本の制度と欧米の制度を組み合わせたハイブリッド型のシステムになっている」と指摘する。具体的には従来の年功的な賃金体系を解体した職務ベースの徹底した成果主義賃金への移行と終身雇用の崩壊である。

「通貨危機をきっかけにアメリカ寄りの成果主義賃金の導入が進み、企業だけではなく大学の教授にも成果評価の仕組みが導入されました。また、柔軟なレイオフ制度ができたことで、企業も終身雇用を保証しなくなり、30代ぐらいの人たちは3年ぐらい一社で働いたら別の会社に移っていくようになってきています。韓国人の中では終身雇用という考え方は終焉を迎えています」(李教授)

そしてもう一つの変化がグローバルな人材採用である。LGEの世界の従業員数は8万2000人。うち韓国人以外は5万2000人で65%を占める。通貨危機以降に韓国外の拠点に限らず、韓国内でも新卒・中途採用だけではなく、トップのエグゼクティブクラスでも外国人を採用するようになっている。もちろん日本企業のように韓国語が話せる外国人に限定して雇うことはない。当然、韓国内でも英語が必須となる。

李教授は日本と韓国企業に共通するグローバルマネジメントの障害は言語と集団主義の2つであると指摘する。

「企業文化が似ている日本と韓国企業に共通するグローバル化のバリアは言語的な制約ともう一つは、日本人は日本人で固まり、韓国人も韓国人同士で固まるという組織的なヒエラルキーを大事にするというような集団主義です」

だが、今は言語の制約は取り払われつつある。その一つは英語重視の採用だ。LGEの新卒の選考ではTOEI Cのスピーキングスコアが900点以上、GPA(グレード・ポイント・アベレージ)と呼ばれる大学の成績評価指標のスコアが一定以上あることが重視される。LGEだけではなくサムスン、現代自動車など大手も同様の要件を課し「要件に加えて、インターンシップを通じていくつかの課題について競争させ、1位か2位になった人を採用している」(李教授)という。

学生にとっては極めて狭き門であり、英語力がなければ「就職も望めないし、大手に入れなければ中小企業に行くしかない」(李教授)のが現実だ。ちなみにLGEの新卒採用者は経済状況にもよるが毎年1000~2000人。日本企業に比べて採用数は多いが、韓国はサムスンなど大手10大企業グループで韓国取引所上場企業の営業利益の6割を占める大企業偏重の社会だ。大企業への入社を目指した国民の教育熱も日本以上に狭き門であることが関係している。

※すべて雑誌掲載当時

(宇佐見利明=撮影 AP/AFLO=写真 American Managemet Association=写真提供)