1万人の兵を1日食わせるだけで225万円もかかる

逆に小田原城を攻める側は、難なく籠城され持久戦に持ち込まれてしまえば、たとえ大軍で包囲してもびくともしないわけですから、非常に攻めるのが難しい。また、長期化すればするほど、逆に攻める側にも兵站の問題が出てきます。それだけの軍勢を食わせるために補給が必要になるわけです。

戦国時代、仮に1万人の軍隊を編成して合戦を行う場合、兵1人当たり「1日3合」の米を食べたとします。これが1万人となると、1日で3万合もの米が必要です。キロ数で換算してみると、1合は約150グラムですから単純に3万をかけると、1日に4500キロもの米を消費することになります。仮に現代の米価格を1キロあたり500円として計算するならば、総計225万円です。

1万人の兵を1日食わせるだけで225万円もかかってしまう。これが長期化する籠城戦の場合、仮に1カ月続いたとしましょう。30日分とすると、兵糧代として6750万円もかかってしまうのです。もちろん、合戦に必要なのは兵糧だけではありません。武器も必要ですし馬も必要です。さまざまな諸経費を考えれば、1万人の軍勢をひと月動かすだけで、現代の価格で1億円以上かかったと思われます。

「軍事は経済である」とも述べましたが、籠城戦が長引けば長引くほど、攻める側にとっても痛手なのです。

上杉謙信も武田信玄も小田原城攻めに失敗している

このように持久戦・耐久戦に優れた小田原城を攻めるのは、相当な軍事費が必要になるということです。籠城戦になれば、城内で再生産できる小田原城は難攻不落な城になるわけです。

実際に、戦上手で知られた二大戦国武将、上杉謙信と武田信玄もこの小田原城攻めに挑みましたが、いずれも攻めあぐねて撤退しています。

上杉軍は10万、武田軍は3万の大軍を率いて小田原城を攻めました。しかし、守りの鉄壁な小田原城は、包囲して補給路を断ったくらいではびくともしません。逆に城を攻める側の補給が尽きて、退却を余儀なくされるのです。

また、上杉10万、武田3万の軍勢の内実をみるとその大半は農民兵です。彼らの本分は農業なわけですから、田植えや種まきの時期など農民の繁忙期には国元へ帰らなければならない。それをしないと、今度はその年の収穫が期待できなくなるため、兵站どころの問題ではなく、国全体が危ぶまれるわけです。ですから、長期間の城攻めはできないということで、包囲を解いて帰還せざるを得ないのです。

青空を背景にした稲穂
写真=iStock.com/makoto photo
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