接待で相手の苦手なものを勧めてしまう人

私は仕事柄、接待を受けることも主催することもよくあります。私が主催の場合、接待で使うお店やコース料理を決める際は、まず相手の好みを把握するようにします。しかし、どんなに事前調査を怠らなかったとしても、相手の嫌いな食べ物が出てきてしまったり、食物の鮮度、あるいは調理法の問題で、相手の好みの食べ物だとしても満足頂けていない様子を察することがあります。

清水建二『裏切り者は顔に出る 上司、顧客、家族のホンネは「表情」から読み解ける』(中公新書ラクレ)
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「察する」という言葉を使いました。それは、接待相手が好みに合わない食べ物に対し、「美味しくない」とハッキリ感想を言われることは稀だからです。多少美味しくなくても、否、不味いと感じていても、「大変、美味しいです」と言う。そして、本当に美味しいと感じていても、「大変、美味しいです」と言うものです。

ですので、この言葉を真に受けるわけにはいきません。私自身も例に洩れず、接待の席ではいつでも「美味しいです」と言います。取引先の方から接待を受けたときのことです。事前に食べ物の好き嫌いを聞かれたので、返答しました。

後から「あ、牛タンが嫌いなの伝え忘れていたな」と思いましたが、まぁ大丈夫だろう、と思っていました。

本音を言えない場こそ「言葉」を真に受けてはいけない

そんな折、連れて行って頂いたお店は、なんと牛タン専門店。牛タンメインのお店で牛タンを食べないわけにはいきません。勧められるままに牛タン料理を食べ、やっぱりこの風味苦手だな、と思いながらも感想を求められ、半笑いで「大変美味しいです」……。

なんとかその日は乗り切ったのですが、時を経て、また同じ相手から接待を受ける機会がありました。連れて行って頂いたお店は、別の牛タン専門店。

「清水さん、牛タンお好きだとおっしゃってましたよね。ですので、今度は、前回とは異なる趣向の牛タンのお店にお連れしたくて」

もちろんその方の気遣いは、大変嬉しいです。大変有難く感じます(ちなみに、私は、前のお店で牛タンを食べ、「美味しい」とは言いましたが、「好き」とは言っていません)。しかし、複雑な気分でした。