「もう少し安くなりませんか」に含まれる真意をどう読むか

ここで表情の観察が役立ちます。

あなたはA社の社員で、売買交渉に臨んでいます。あなたの売値の下限は、2600円。しかし、買値の上限はわかりません。価格は相場感から2600円~3000円の範囲で変動していると予想しています。そこであなたは、利潤を最大にするため、「価格は3000円です」と買い手に伝えました。

電卓
写真=iStock.com/Xesai
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買い手は、次のように答えます。

「他社さんの価格よりも高いですね。出来ることなら信用の高い御社と取引したいと考えています。もう少し安くなりませんか」

この言葉にはどんな心理が込められているでしょうか。買い手の微表情(0.5秒だけ人の顔に表れる無意識の表情)がヒントとなります。

このとき、買い手が、嫌悪の微表情を浮かべていれば、買値の上限が3000円より下と推測できます。そこであなたは値引きに応じます。

「○○個以上の購入で単価2750円、でいかがでしょうか? 購入数によってはさらなるお値引きも可能です」

2750円でも買値の上限を超えてしまっているときの予防策として、購入数による値引きもあり得るということを付け加えます。

この価格提示に買い手が、「もう少し単価を抑えられませんか。予算が限られておりまして」と言います。

図表1を見て下さい。これは、売買交渉実験中、買い手がまさにこのセリフを言い終わった瞬間です。買い手の顔を観てみましょう。口角が引き上げられ、口周りに力が込められているのがわかります。

表情を読み取る能力が高い人ほど、商品を高く売れる

口角が引き上げられる表情から幸福を読みとることが出来ます。口周りに力が込められるのは、表情を抑制しようとする働きです。

そう、買い手の顔を観ると、幸福の微表情を浮かべている。2750円で満足しているものの、それを隠し、さらなる値引き交渉が出来ないかと考えているのです。

そこで、買い手の立場を推し測り、2750円という価格に対し、敢えてさらに値引きしてみせます。

「ここからさらに特別に値引きさせて頂きたく存じます。今回の取引を機に、B社様と末永い関係を結べれば幸いです」

買い手が2750円で満足しているところ、さらに値引きをして、満足を倍増してもらうのです。買い手に譲歩することで、双方で継続的かつ安定的に利潤を得ていきましょう、というメッセージを伝えるのです。

表情を正確に読む能力が高い売り手ほど、売買交渉において商品を高く売ることが出来るというのは、科学実験から証明されている事実です。今後、営業や商談などの交渉事に臨む際、ぜひ相手の表情や感情の流れに注意してみて下さい。交渉相手の隠された意図が、微表情やその他サインから生じるかも知れません。