客観的には利害関係がなくても、社長あるいは会長の知人・友人が選ばれることが多い。実際に候補者の人格をまったく知らずに選ぶことは難しい。だから大学の同窓生、ゴルフ・クラブや地域の社交クラブの知り合いが選ばれることが多いようだ。実際にまったく知らない人を選ぶのは無責任である。少ない報酬でも、きっちりと仕事をしてくれるかどうかを知ったうえで選任されるべきでもある。

日本の場合には、社外取締役の導入を義務づけるよりは、日本独特の制度である監査役制度を改良・充実させるほうがよい。社外監査役は、社外取締役よりも情報を得るのが容易だ。社外監査役は、取締役会だけでなく監査役会にも出席する。そこで社内監査役から質の高い情報を得ることができる。社内監査役は、内部事情に精通しているので、早い段階で不正の兆候を見つけることができる。

また、監査役は監査権限を持っているから業務執行の幹部との面談を要求することもできる。会社によっては監査役室という形で情報収集のための補助スタッフが配置されているところもある。工夫によっては社外の役員が情報を得やすい環境をつくることができる。独立性も高い。4年の任期が確保されている。

もちろん監査役の制度にも限界がある。監査役による監査は親会社で目いっぱい。子会社まで手が回らない。大王製紙の事件は、子会社の監査役と親会社の監査役との情報交換が行われておれば、もっと早く見つけることができたはず。この点に関しても会社の工夫が必要である。

社外取締役という効果の期待できない制度を強制するよりは、監査役会をうまく機能させるような工夫を企業に促すようにすればもっと効果が上がるはずである。監査役を取締役に格上げしようという動きもあるが、効果はあるのだろうか。意思決定に参画した人々がその意思決定の妥当性を問いうるのだろうか。

監査役というグローバルスタンダードに合わない制度を継続するよりも、アメリカ型ガバナンスの仕組みを導入しないと、海外投資家の資金を呼び寄せることができなくなる、と脅迫まがいの声が聞こえてきそうだが、このような人には次の2つのことを質問したい。

海外の機関投資家に依存しすぎている日本の証券市場で、これ以上海外の機関投資家の投資に依存することが市場と企業の健全な発展につながるのだろうか。また、統治制度をアメリカにそろえることは投資を呼び込むための重要な条件かどうか。私なら、統治制度の整った国に投資するよりも、発展する企業が多い国に投資してくれるファンドを選ぶ。