「年を重ねるにつれて将来を不安に感じるようになる」

一般的なNGOと比べて、ピースボートの労働環境に問題はないのだろうか。国際協力NGOセンター(JANIC)は、NGO職員の待遇や福利厚生の実態を明らかにする調査「NGOセンサス」を実施している。2019年の調査では、10月から12月にかけて、46団体から回答を得た。

給与と福利厚生について見ると、健康保険と厚生年金保険の制度を整備しているNGOは96%に上った。残業手当については70%、賞与は65%、退職金は57%と、半数以上のNGOで支給されている。住居手当は37%が支給されている。ピースボートはこの調査の対象ではないが、ピースボートの専従スタッフにはどの手当もない。

昇給制度はピースボートにもある。しかし、その基準は不明瞭で、年度初めに昇給額が告げられるだけ。Aさんは「数年ほど勤務しても、2万円アップするかどうかだった」という。

ピースボートセンターとうきょうへの入り口
写真=田中圭太郎
ピースボートセンターとうきょうへの入り口(新宿区高田馬場)

ピースボートの本部があり、多くのスタッフが勤務するのは東京・高田馬場。給与の低さから、スタッフ同士がシェアハウスで暮らすケースが多い。スタッフの誰かが所有する部屋を、複数のスタッフで借りる。部屋で飲み会を開くなど「楽しく過ごすことができる」そうだが、この労働条件では、年を重ねるにつれて将来を不安に感じるようになるという。

「労働関係の法律などが守られているのか、疑問に思いました。スタッフには40代の人もいますが、おそらく20代や30代前半で辞めていく人が多いのではないでしょうか」

ピースボートは法人格のない「民法上の任意の組合」だった

Aさんの証言にもとづき、ピースボートに質問した。運営形態について、広報担当者は「民法上の任意の組合です。発足当初からこの形態で運営しています」と答えた。

民法上の任意の組合とは、基本的には2人以上の事業主が、利益の獲得や費用損失を負担するといった共通の目的のために出資する組合だ。つまり、法人格はない。また、社会保険の適用事業所ではないため、スタッフは自分で健康保険や国民年金を支払うことになる。スタッフの労働条件は、この運営方法に起因している。

一方、責任パートナーが赤字を負担する制度については、次のように説明している。

「クルーズのコーディネートをおこなう業務委託費などの収入に対し、家賃や人件費などの活動費が上回ると収支がマイナスとなり、責任パートナーが負担します。現在の責任パートナーの負担の有無、金額についてはお答えしかねます。当団体は、責任パートナーではない専従スタッフも活動しており、その方々に出資や経済的負担はありません」