消費税の全額を消費者が負担?
生産者が消費税課税以前よりも正確に増額した税額だけ高く売らなければならない社会では、取引額がより一層減少し、国民経済の負担(死重損)が増える。しかし、政府広報を見ると、矢野財務次官だけでなく、財務省はもちろん、消費者庁も公正取引委員会も、消費税の全額を消費者が負担するのが望ましいと考えているのがわかる。
「下請けに負担をかけるな」という意味だと弁護する人もいるが、ミクロ経済学の基本に反する政策を実行するのであれば、政府関係者にはどのような状況でミクロ経済学の理論が間違っているのかを説明する責任があると思う。
第二に驚いたのは、消費税転嫁対策特別措置法は、21年3月末に失効している。経済原理に合わない法律が失効することはいいことではあるが、21年11月に発表した同論文では、同法が現在も有効であるかのように説いている。
財務次官もいろいろ忙しいので、法律の失効時期や経済学の初歩を忘れているのかもしれないが、それを正す人はいないのか、制度や仕組みがないのか疑問である。
法の設定、運用と経済原理とに大きな矛盾が起こらないようにするため「法と経済学会」というものがあり、少なくとも学者と公正取引委員会との知的交流は存在する。
財務省も、行政官に経済学の理解が必要だと考えていることは事実である。財務省には「財務理論研修」というのがある。経済学者の岩田規久男氏が講師として出向き、当時財務省にいた本田悦朗氏にリフレ派の経済学を教育し、本田氏は第二次安倍内閣で安倍晋三首相(当時)にリフレ派の経済学を指南することで、アベノミクスが誕生することとなった。すなわち、同研修が「失われた20年」と呼ばれて衰退した日本経済を復活させた影の舞台となったのだが、今は機能していないのだろうか。