エリザベス女王は、キャサリン妃が出産にまつわるプレッシャーに苦しむことがないように、男子優先から完全な長子優先に変更すべきと考えた。この時、女王は口には出さないが、男子出産のプレッシャーを抱えていた雅子皇后に同情を寄せていたといわれている。

女王はメディアを通じて、それとなく長子優先への期待を示した。イギリス国民の反応は、前向きだった。これは「アドバルーンを揚げる」と呼ばれている。女王らが何か決定する前に国民に問いかけ、反応を待つ。

「女性に君主は務まる」を体現した女王

国民が長子優先に賛成したのは、男子優先が時代遅れであると感じていたからだ。男女平等は国の大事なルールであることを具体的に示す必要性は共通認識になっていた。一番初めに生まれた子供が性別に無関係に君主に就くと定めるのは、わかりやすい男女同権の証しである。

女性に母と妻と君主の役割を背負わせるのは、荷が重すぎて心配であるという「紳士」の立場からの意見もあったが、これはエリザベス女王の並外れた努力に水を差すものとして一蹴された。4人の子供を出産・育児(ナニーが面倒を見たとしても)をしながら長く健康で君主の公務を勤勉に果たした姿が説得力を持った。「女性に君主は十分に務まる」ことを女王は体現していた。

王冠
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キャサリン妃は2013年に長男ジョージ王子を、2年後には長女シャーロット王女を出産した。王女が生まれた際には、「歴史的なプリンセス」と呼ばれた。たとえ彼女の下に男の子が生まれても王位継承順位が揺るがない、王室史上初めてのプリンセスなのだ。実際、その後に次男ルイ王子が誕生したが、王女の順位4位は変わらなかった。

ヨーロッパの王室に近く訪れる「女王の時代」

イギリスは歴史と伝統を重視するが、変化もまた受け入れる。女性には体力的・精神的に君主は無理があると主張する人がいても、女王のこれまでの成功と人気は、女性君主が十分に可能であることを示した。

それに何より、7つ(モナコなど公国を除く)あるヨーロッパの王室で、男子に限定していたかつての王位継承制度から男子優先、さらに長子優先に切り替える流れがあったことも影響している。イギリス王室はむしろ遅かったと見なされた。

現在、在位している女王はエリザベス女王とデンマークのマルグレーテ女王(1972年に即位)の2人だが、スウェーデン、ノルウェー、オランダ、ベルギー、スペインでもいずれ女王が誕生する見通しだ。ヨーロッパでは「女王の時代」がすぐそこまで来ている。