先端的経営をうたう大学の矛盾

図表1は、『ブルシット・ジョブ』の第七章にあらわれる「シラバス」の作成手順をあらわしたものです(BSJ339)。わたしはこれが最初に目に飛び込んできたときおもわず万歳をしたくなったのですが、グレーバーらしく、なかば誇張であり、もっともらしい体裁で痛烈な皮肉をふくんだ図だとはおもいます。

酒井 隆史『ブルシット・ジョブの謎 クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか』(講談社現代新書)
酒井隆史『ブルシット・ジョブの謎 クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか』(講談社現代新書)

説明すると、下は「非効率」を槍玉にあげられがちな伝統的大学(文学部)です。上は先端的経営をうたう、まさにネオリベラル改革の先頭をひた走る大学です。

シラバス作成にかんして「非効率」なはずの伝統的大学では、大学職員から大学教員への通知ひとつでことはすんでいます。じつに「スリム」なのです。

ところが先端的経営による効率性をうたう大学では、管理チェックの過程などがあいだにはさまって、異様に複雑なものになっています。つまり、シラバス作成の過程がかつては、2部門のやりとりによってかんたんに終わっているのに対し、改革をへたあとのシラバス作成の過程では、官僚制的な手続きが肥大しています。

そしてそれに付随して、わたしたちにとっては不条理なまでの意味のわからない「雑務」(非BSJのブルシット化)と、さらにその増殖した仕事などを請け負うあたらしいポストが生まれている(BSJの創出)のです。

そして、それをわたしたちは、先端的経営理念による「効率化」と呼んでいる、というか呼ばされているのです。

効率化したはずが、チェックにチェックを重ねる羽目に

またグレーバーはもうひとつ事例をあげています。入試の試験問題作成です(図表2、BSJ340)。

それまでの伝統的大学ではかんたんなやりとりですんでいたものが、効率化されたはずの先端的大学では異常なまでに複雑化しています。わたしたち教員の多数の体感にもこの図はまさにぴったり即しているのではないか、とおもいます。たとえば問題作成から作成した問題の事務への提出、その保管、さらに整理、採点など、かつてはかなりが現場における「あうん」の呼吸でインフォーマルにすまされていた過程のほとんどすべてがフォーマル化され、したがってフォーマット化され、複雑な二重三重のチェックの契機が導入されました。

そのためのペーパーワークも年々増加の一途をたどっています。チェックのチェックがそのうちあらわれるんじゃないか、という冗談も冗談ですまなくなってきました。