猫背は胃酸の逆流を誘発しやすい

日中の動作でもっとも気をつけたいことは、猫背の改善です。猫背はとくに、胃酸の逆流を誘発しやすいという研究報告があり、いま研究者の間でも注目されています(*1)

まず、自分の全身を鏡に映して見つめてみてください。猫背や前かがみの姿勢になっていませんか。加齢とともに猫背がひどくなってきた、またスマホやパソコンの操作中、食事中に背中が丸くなっているなど、思い当たる人は多いと思います。

三輪洋人『胃は歳をとらない』(集英社新書)
三輪洋人『胃は歳をとらない』(集英社新書)

重要なことなのでくり返しますが、猫背や前かがみの場合、おなかのあたりが圧迫されています。すると胃の内部の圧力が高まって、胃の入り口より少し上にある下部食道括約筋がゆるみ、胃から食道のほうへと胃液が逆流しやすくなるのです。

また、猫背や前かがみの姿勢は、横隔膜の働きにも影響します。横隔膜には、食道が通る食道裂孔という通り道が開いています。ちょうどこの部分が食道と胃のつなぎ目にあたり、下部食道括約筋がある場所です。つまり、姿勢が悪いと横隔膜の機能が低下して、下部食道括約筋のゆるみにつながります。すると逆流性食道炎はもちろん、胃不調や胃疲労につながります。

さらに、ストレスが強くて精神的な不安が続くときは、機能性ディスペプシアや非びらん性胃食道逆流症をまねくことがあります。胃の病気でなくても、心配事があるときは食欲がなくて消化が悪い、便秘や下痢をすることはあるでしょう。このとき、姿勢は猫背や前かがみの姿勢になりがちです。

(*1)Fujimoto K. Prevalence and epidemiology of gastro-oesophageal reflux disease in Japan. Aliment Pharmacol Ther. 2004;20(Suppl. 8):5-8. Yamaguchi T, et al. The presence and severity of vertebral fractures is associated with the presence of esophageal hiatal hernia in postmenopausal women. Osteoporos Int. 2002;13(4):331-6.

猫背は意識を高めて軽い筋トレをすれば必ず治る

「猫背など姿勢の改善は難しい」と言う人は多いのですが、姿勢を矯正する意識を高めることや軽い筋トレを続けることで必ず改善されます。

まずは、パソコンやスマホの操作中、食事中、テレビを観ているときなど、自分の無意識時の姿を誰かに写真を撮ってもらってください。ぎょっとするぐらいに猫背になっているでしょう。その認識だけでも、改善へのモチベーションがアップします。

また、その写真を印刷してデスクやダイニングに貼っておくと、日常的に背筋を伸ばす動機になるでしょう。次に、図表4のように、壁に足から背中、頭をつけて立ってみてください。

逆流性食道炎や胃疲労の改善・予防に猫背を正す

肩の力を抜いてあごを引き、自然に後頭部、けんこう骨、おしり、ふくらはぎ、かかとが壁につくようにしましょう。全身を映す鏡があれば、左右の肩が傾いていないかもチェックします。その姿勢を毎朝確認するだけで意識が高まり、日中もことあるごとに背筋を伸ばすようになるでしょう。それに、背中が伸びた姿勢を覚えることができるメリットもあります。

背筋を伸ばすといっても、背中を緊張させて力を入れ過ぎると首こり、肩こり、腰痛につながりかねません。背筋を伸ばしておなかに少し力を入れ、口から息を軽く吐き、両方の肩を後ろに3〜5回まわすか、上下にストンストンと動かしてください。どうですか、猫背がやや改善して気分もすっきりしませんか。このとき、胃の蠕動運動も活発になっています。