第17期中共中央政治局委員・重慶市党委員会書記(はく・きらい/ボー・シーライ)
1949年生まれ。父の薄一波・元副首相は文化大革命で批判され、一家で苦汁を舐める。遼寧省大連市党委書記、同省長、商務相などを経て現職
中国の次世代指導部を選ぶ2012年秋の第18回共産党大会におけるダークホース。中国で最も貧しい直轄市・重慶市党委書記として在任4年間にみせた政治手腕は認めざるをえない。マフィアや腐敗官僚の徹底排除と庶民への革命歌奨励。そして重慶モデルと称される格差是正重視の経済政策。司法や市場に有無を言わせず、鄧小平路線から毛沢東回帰とも言える方向に重慶の舵を切った。毛沢東時代にノスタルジーを感じる農民・労働者階級の支持を得て、政治局常務委員という中央権力ポストの争奪に自ら動く官僚政治家は彼の前にはいなかった。
新左派路線を打ち出しながら、実は既得権益層の「太子党」(共産党高級幹部の子弟)。薄一波・元副首相の息子で、大連市書記や遼寧省長時代は汚職の噂も絶えなかった。その蓄財ぶりを裏付けるかのように息子を英国の全寮制貴族学校ハロウ校、オックスフォード大に通わせるなど、私生活にブルジョア趣味を漂わせている。左派路線は信念からくるものではない。
そうは言っても“薄沢東”と陰口をたたかれる文革式パフォーマンスは、改革開放の恩恵を受けてきた太子党幹部たちを鼻白ませるに十分だ。改革派を自任する温家宝首相は「文革の残滓」とあからさまな嫌悪を示した。
政治局常務委員の椅子は9つ。「野心の強すぎる男は党中央指導部の団結を阻害する」と警戒され、政治局常務委入りは困難ではないかとの観測が強まっている。しかし、政治と経済のほころびが顕在化し社会不安が高まるとの予測がある中国において、権力欲が強く大衆動員のうまい男を野に置くことほど危険なこともないとの声も。