ヒートショックが入浴中に起きやすい理由
今年は10月半ばまで真夏日が続いていたかと思えば、一気に気温が下がり、秋を飛び越え冬の始まりを感じるような寒さの日もありましたね。急いで衣替えをした方、毛布やあたたかい布団を出した方もいるのではないでしょうか。寒暖差で体調を崩した経験のある方も多いと思います。
「ヒートショック」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。冬に起こりやすい、寒暖差が原因で身体に生じる現象のことを言います。聞いたことのある方は、なんとなく「入浴中に起こりやすい」「高齢者に起こるもの」というイメージをお持ちではないかと思います。どちらも事実ですが、実は、気を付けるべきは高齢者だけではありません。
ヒートショックはなぜ入浴中に起きやすいのか。まずはその仕組みをご説明します。
人間には「恒常性」といって、身体外部の環境や内部の変化にかかわらず、身体の状態を一定に保つ機能が備わっています。そのため、あたたかい環境から冷たい環境に移動すると、身体は熱を奪われまいとして血管が縮み、血圧が上がります。また、冷たい環境からあたたかい環境に移動すると血管が広がって急激に血圧が下がり、血圧が何回も変動することになります。
このような急激な血圧の変化が短時間で起こると、血管や心臓に負担をかけます。これが身体に与える健康被害をヒートショックといい、失神して溺れてしまう、心筋梗塞や不整脈、脳梗塞などを起こし心肺停止につながるなど、さまざまな被害があるとされています。
11月~4月は入浴中の死亡者数が多い
厚生労働省の人口動態調査によると、令和2年の「浴槽内での及び浴槽への転落による溺死及び溺水」、つまり入浴中の溺死者は5444人もいらっしゃいました。(「人口動態調査」上巻 死亡 第5.31表 不慮の事故による死因(三桁基本分類)別にみた年齢(5歳階級)別死亡数(2020年))
しかも、入浴中に脳血管疾患や心疾患など、溺水ではなく病気で亡くなられたと判断された場合、「入浴中の」死としては計上されません。そのため、実際には入浴中に亡くなっている人の数は年間約1万9000人とも言われています(消費者庁ニュースリリース「冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!」)。「交通事故」の死亡者数は3718人でしたから、入浴中の死者数は実におよそ5倍にもなります。
先述のとおり、溺死の場合にもその他の死因の場合にもヒートショックは大きくかかわっている可能性があります。実際「東京都23区における入浴中の死亡者数の推移」で月別の死者数をみてみますと、例年11月~4月に死者数が多く報告されており、1月がそのピークとなっています。やはりこれからの時期はいっそう注意しなければいけません(東京都監察医務院「東京都23区における入浴中の死亡者数の推移」)。