「継続」は人生を豊かにする秘訣
私自身も20代の頃、転職が正しいのか、会社に残ることが正しいのか、夜な夜な寝床のなかで悩んだ経験があります。
1955年、鹿児島大学工学部を卒業した私は、京都にある高圧電線向けの碍子メーカーに就職しました。しかし、入ってからわかったのですが、そこでは、給料の遅配も日常茶飯事。いつ潰れてもおかしくない状態でした。
大卒の同期5人は、昼休みになると集まっては「こんなオンボロ会社、はやく辞めよう」と愚痴をこぼし、不平・不満を言い合っていたのです。そうすると、毎日がとても息苦しく、暗くなります。そして、1人去り、2人去り、結局、私一人が残ることになったのです。
当時、私は23歳。たどり着いた結論は、自分の感情で物事を決めていくのではなく、しっかりとした判断基準がなければだめだということ。言い換えれば、会社を辞めるにせよ、残るにせよ、そこには必ず“大義名分”が必要だということです。絶対に目先のお金などにとらわれ、損得勘定で決めてはいけない。
私は会社に残り、研究に没頭する意志を固めました。フォルステライトと呼ばれる新しいセラミックス材料の開発です。まだ世界でも、アメリカのGE(ゼネラル・エレクトリック)以外には合成に成功したところはなく、日本で実現できれば、起死回生の製品となるものでした。
そのため、大した設備もないなか、連日連夜、それこそ徹夜続きで実験に取り組んだのです。もがき苦しみながら、自分をギリギリまで追い込む。すると不思議なもので、研究開発の成果が上がり始めました。そして56年初め、ついに開発に成功したのでした。このときの技術、実績が、後に設立する京セラ発展の礎となりました。
このときの経験からわかったこと。それは、何よりもまず、自分の仕事を好きになることです。