「働きやすさ」と「働きがい」は両輪だ
ミドルマネジメントであるならば、部下が働きやすく、部下にとって働きがいのある環境をつくることも大切です。
最近の若い人たちは、働きがいよりも働きやすさを重視すると聞きます。でも私は、その2つは一体不可分のものだと考えます。勤務体制にゆとりがあるとか福利厚生が充実していることは大切でしょう。ですが、それだけでは組織は成長しない。部下が「創意工夫」や「継続」を、自らの意思で成し遂げる風土をつくらなければなりません。
59年、私は支援してくれる知人と京都銀行から出資を仰ぎ、前の会社の仲間である大卒者3人と、高卒者2人、合わせて5人が中心となり京セラを創業しました。私はまだ27歳。一介の技術者で、経営の経験はまったくありませんでした。京都市中京区のはずれ、西ノ京原町というところにあった、ある配電盤メーカーの倉庫を間借りして、中学校を卒業した新入社員を入れて、28人でのスタートでした。
幸い、前の会社で手がけた私の技術が認められ、大手電機メーカーからもたくさん注文をもらっていたので、それをこなしていけば会社は維持できたと思います。しかし、それでは京都の零細企業で終わっていたことでしょう。
そこで、私は「この西ノ京原町で一番の会社になろう。ここで一番になったら、中京区で一番をめざそう。その次は京都で一番。京都で一番が実現したら、日本一になろう。そうしたら、あとはもちろん世界一だ」と、ことあるごとに社員たちに語りかけていました。
ところが現実は厳しい。私はすでに結婚して、賃貸アパートに住んでいました。ほかの4人もアパート暮らしで、しかも相部屋。そこから市電で会社まで通いました。始発で会社へ向かい、仕事に追われ終電に間に合わなくなって泊まり込んだことも、たびたびでした。何とか立派な会社にして、資金を提供してくれた人たちに恩返ししようという意気込みだけがあったのです。
社員は大変だったと思います。資金や土地、設備といった経営に必要な資源は何もありませんでした。もちろん、会社の信用や知名度もない。吹けば飛ぶような会社が生き延びていくためには社員の団結が必要でした。