景気低迷、雇用不安、格差拡大……経済の低迷がまだしばらく続く中、何を指針として我々は働けばよいのか。現状と対策を識者3人に聞いた。
マネー
不況でビジネスマンのお小遣いが減っている。直撃を受けているのが中高年だ(図19)。1回目(http://president.jp/articles/-/5066)に紹介した中間管理職の年収減が直接響いた印象だが、経済評論家の荻原博子氏は、その背景として会社法改正の影響を指摘する。
「従来、企業は社長と従業員が力を合わせてやっていくものでしたが、会社法改正で企業は株主のものになり、経営陣は株主を見て経営するようになりました。その結果、人件費はコストとして扱われ、不況になると真っ先にカットの対象に。若い世代の給与を削ってもたかが知れているので、ターゲットは上の世代。それが中高年の家計を直撃しているのです」
家計が厳しさを増すなか、家庭ではどのような不況対策を行っているのか。もっとも多い回答は「節約」で、年収1500万円未満の各層で過半数に。対照的に「妻が働き始めた」は、どの層でも1割未満だった(図21)。
節約の対象に年収による差はないが、中所得者層で「外食」(32.5%)や「趣味・教養・娯楽費」(14.2%)。選択肢として「子供の教育費」も設けたが、選んだ人はゼロだった(図23)。
「子供の教育費は聖域にしたいという親心でしょう。ただ、知人の家庭は有名小学校のお受験で500万円費やしたと言っていた。これができるのは、限られた家庭だけ。現実として、子供の教育には歴然とした収入格差が存在しています」
節約で家計のキャッシュフローはやりくりできても、気になるのは将来に向けてのストックだ。年齢別の金融資産額を見ると、当然ながら年齢が高いほど額も大きい(図24)。
「50代以上は逃げ切り世代。持ち家で貯蓄が2500万円以上なら、生活に困窮するリスクは低いと思います。しかし、それより下の世代は増税や社会保障費の負担増が予想され、将来はいまの50~60代ほど資産を持つのは困難。また将来もらえる年金額も微々たるもの。いま世代間でこれだけの資産格差があると、将来はもっと厳しいことになります」
そこで考えたいのが資産運用だ。アンケートでは、世帯年収にかかわらず幅広く分散投資を行い、中高年以上は株式投資に積極的である実態が明らかになった(図25、26)。しかし、荻原氏は「10年は株式投資が危険」と忠告する。
「米国ではサブプライムローンに続いてプライムローン(信用力のある債務者への住宅ローン)、さらに商業不動産まで焦げ付き始め、不良債権を抱えた銀行が100以上潰れています。いま米国で株高なのはヘッジファンドが買っているからで、短期的には乱高下、長期的には株安です。こうした状況で素人が株で儲けようとしても、やけどを負うだけです」
では、10年は何に投資すればいいのか。「現在はデフレが加速中で、キャッシュが一番強い。下手な投資はやめて、デフレで相対的に増えるローンも減らすべき。何もしないで現金で持つというのも、立派な選択肢の一つです」。
マネー環境は、10年も大荒れ。どうやら守りの1年になりそうだ。
※すべて雑誌掲載当時
1954年、長野県生まれ。経済ジャーナリストとして新聞・雑誌に執筆するほか、テレビ、ラジオのコメンテーターとして活躍。経済の仕組みを、わかりやすく解説する。著書に『家計破綻に勝つ!─40代からの生き残りマネー戦略』など多数。