今年初め、ネット上で「ゲーム機が品薄で手に入らないのは味の素社のせい」というウワサが立った。味の素社は半導体パッケージに欠かせない絶縁材を生産しているため、それがボトルネックになっているという。たしかに味の素はパソコン用CPU向けの部材でほぼ100%のシェアをもつ。なぜ食品会社が絶縁材を生産しているのか。そして、本当にそれがゲーム機生産のボトルネックなのか。ライターの小口覺さんが解説する――。
研究室の研究開発産業
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パッケージ基板には座布団のような役割がある

世界的な半導体不足の影響で、パソコンやゲーム機、自動車、家電など、幅広い製品が品薄状態となっている。その原因は複合的で、ネットワーク機器など元々あった需要の増大に加えて、新型コロナウイルス発生による需要予測の誤り(各メーカーが注文・生産を抑制したが、予想に反して需要が回復)やリモートワークによるPC需要の高まり、さらには米中対立も要因に挙げられている。

そんな中、今年初め、ネット上である噂が立った。最新ゲーム機「PlayStation5」や「Xbox Series X/S」が品薄で手に入らないのは、「味の素社のせい」というのである。一体どういうことか?

味の素社といえば、誰もが知るうま味調味料「味の素」をはじめとした調味料、冷凍食品など加工食品を扱う食品メーカーである。そのグループ企業、味の素ファインテクノ社は、各種半導体パッケージに欠かせない層間絶縁材「味の素ビルドアップフィルム(以下、ABF)」を生産している。パソコン用CPUでは、ほぼ100%のシェアを占めるとされるこのABFの生産が追いつかず、新型ゲーム機のボトルネックになっている説につながったというわけだ。

CPU
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ABFの話をする前に、半導体パッケージ基板の基礎知識について説明する。

パソコンのCPUを例にするが、CPUのICチップはマザーボードに直接接続されているわけではない。上の写真のように、ICチップはパッケージ基板と呼ばれる小さな基板の上に載せられ、ひとつのパッケージとなっている。マザーボードを床、ICチップを人間とするなら、パッケージ基板は座布団のようなものだとイメージしてもらうと分かりやすいだろうか。

パッケージ基板は、ICチップを保護しながらマザーボードに電気的に接続する役割を担っている。座布団のクッション性のおかげで、人間の脚が床の硬さから守られつつしっかりと座れるようになるのに似ている。ナノメートルサイズのICチップの電子回路をミリメートルサイズの電子部品に接続するため、パッケージ基板は微細な電子回路を何層にも積み上げて作られる。その製造において絶縁材のABFが必要とされるのである。