「コロナ禍でワクチンを打たないのはとても危険」

第III相臨床試験の中間報告によると、ファイザー社製の有効率は95.0%(16歳以上)、モデルナ社製は94.1%(18歳以上)。

ちなみに有効率90%は、「100人打てば90人はかからない」という意味ではなく、「非接種のグループの発症率に比べて、接種したグループは発症率が90%低い」という意味となる。

一方、リスクはどうか。

発熱などの副反応が起きることはよく知られている。しかし、重篤な有害事象が起きたのは、ファイザーの臨床試験では接種群が0.6%、対照群が0.5%、モデルナの臨床試験では両群が0.6%で、差がなかった。

mRNAワクチンは有効率が高く、重篤な有害事象が必ずしも多いわけではない。理論だけでなく臨床上でも優れたワクチンといっていい。

デルタ株など変異株への効果など未知の部分はある。しかし、千酌教授は、力強くこう語る。

「現時点で新型コロナウイルスに対抗するベストの手段はワクチンです。ワクチンを打たずにコロナ禍の中で生活するのは、とても危険です。普通に考えればこれに頼らない選択肢はない」

ベネフィットが明らかでも合理的に判断できない理由

一般的に私たちが何か治療を受けるのは、治療を受けたことで得るベネフィット(利益)が、受けたことで損失が発生するリスクを上回ると判断するからだ。

たとえば抗がん剤治療は吐き気がしたり、髪が抜けるなど副作用のリスクがある。しかし多くの人は、それらのリスクより、がんが寛解するというベネフィットが大きいと考えて抗がん剤の治療を受けている。

mRNAワクチンでは、感染予防率が高いこと(ベネフィット)、重篤な有害事象は非常に頻度が低いこと(リスク)を天秤にかければ、ベネフィットがリスクを上回る。

ところが実際にはこの天秤がうまく働かず、ワクチンを忌避する人もいる。それを非合理的と批判するのは簡単だが、千酌教授は「人間は計算機ではなく、つねに合理的な判断ができるわけではない」と優しく諭す。

「新型コロナウイルスは新しい感染症であり、罹患するとどれだけ大変なのか、一般の方からはわかりにくい。それはすなわち、発症や重症化を防げるというベネフィットが見えづらいことを意味しています。ベネフィットが見えないので、リスクばかりに目が行くのです」

人間はベネフィットが明白でも、合理的な判断を下すのは難しい。

唐突だが、目の前に札束があったとしよう。何もしなければ100万円が手に入るが、コインを投げて表が出たら200万円、裏ならお金は1円ももらえない。このとき、みなさんはコインを投げるだろうか。

理論的な期待値は同じなので、どちらを選んでも間違いではない。しかし、実際はコインを投げずに100万円をもらう人が圧倒的に多い。得する局面において、人は不確実性を回避する傾向が強いのだ。