WeWorkをいかに再建させるか

新規事業の運営では、チームの結束も欠かせない。その大切さを痛感する苦い経験があった。それは小齊平さんがソフトバンク・ビジョン・ファンドが出資する「WeWork」の日本事業の担当に着任したときのことだ。

シェアオフィス事業を展開する「WeWork」はアメリカの企業で、ソフトバンクなどと2017年にジョイントベンチャーを設立し、日本事業を開始。2019年にはアメリカ本国で上場申請したが、9月に取り下げになってしまい一気に資金繰りが悪化した。小齊平さんが「WeWork」の日本事業の担当になったのは、この事態が発覚する2週間前のこと。まさに寝耳に水の状況に直面し、いかに彼らを再建するかという激論の渦中に巻き込まれていく。

当時、小齊平さんは4名の部下を抱え、ひたすら数値分析に追われた。日本国内の約30拠点のオフィスがどれだけ稼働しているのか、顧客の利用状況を徹底的にリサーチし、レポートにまとめていく。連日その作業が続いた。

「部下からレポートがあがってきたとき、私は『ここは分析軸が違っているよね』などと間違っているところだけをフィードバックしていました。本来は部下のモチベーションや成長を見据えて、彼らが考えたことをちゃんと汲み取りながら、フィードバックしなければいけなかったのですが」

しかし孫会長との会議が突発的に入ることもあり、緊張感がある。また報告したレポートをもとに戦略の検討がどんどん進んでいくので、絶対に間違った数字は出せないという怖れもあった。

「一刻一秒でも速く正確なレポートを出したいという焦りから、何でこういうことをしているのか、社内でどんな議論が行われているのかという説明もおろそかになっていました。忙しくても、私は社内での議論をもとに新たなものが生み出されていくのを感じられるから面白さややりがいもあったけれど、それについて十分にシェアされず、アウトプットの速さと正確さだけを求められ続ける部下は本当に辛かっただろうと思います」

部下に指示をしても、だんだんリアクションが乏しくなっていった。ただ機械的に動く様子が気になり、「ちゃんと考えてやってくれている?」と聞くと、「これは小齊平さんの趣味ですよね」と冷ややかな返事。「何でそこまでやらなきゃいけないんですか」と反論を受けるようにもなっていた。

事態の収束後、突如告げられたチームの解散

プロジェクトが一段落した後、部下たちから他の上司に「これ以上、このプロジェクトを続けていくのは厳しい」と申し入れがあり、チームの解散を告げられた。そのショックは大きく、しばらく自省の日々を過ごしたという小齊平さん。他のチームの活動を見ていて、気づかされたことがあった。

「チームで働いているからこそ、より大きな成果を出せるのだと。メンバーの個性や強みが活かされることで、足し算ではなく掛け算の結果が出るのだと気づきました。私は目の前の作業に追われるあまり部下を手足のように使ってしまい、彼らの良さや強みをいっさい反映できなかった。チームだからこそ、掛け算の達成感を得られるような形を築かなければならなかったのだと痛感したのです」