「私は前科一犯だから怖かったら言ってください」
その後新たに率いることになったのが、今のチームだという。前回の失敗を踏まえて、できるだけ一人ひとりと話す時間をつくり、自分自身の素顔も隠さないことを心がけた。
「私はどうもパーフェクトな人間とか、強いと見られがちなのですが、実は飛行機に乗り遅れたり、スーツケースを空港に忘れたり、そそっかしい失敗もたくさんあります。前のチームでは部下に辛い思いをさせたから、今のメンバーには『私は前科一犯なので、怖かったら言ってくださいね』と最初に伝えました。『今の言い方、ちょっと怖いですよ』と言われる度、『ごめんなさい』とあやまっているんです」
昨年11月からはそのメンバーと「WeWork Japan」へ出向。コロナ禍でオフィスの在り方が見直されるなか、シェアオフィス事業にはさらなる可能性を感じている。新しい価値を生み出す挑戦はこれからも続くことだろう。
そんな小齊平さんにとって、肩の力を抜ける余暇の時間はあるのだろうか。最後に聞いてみると、思いがけない答が返ってきた。
「パウンドケーキを焼くのが好きなんです。ちょっと実験めいているのですが、小麦粉をそば粉に変えてみたり、砂糖をはちみつに変えてみたりとか。とにかくバターと卵の香りが大好きなので……」
なんとも幸せそうな笑顔を見ていると、ふんわり甘い香りが漂ってくるようだ。真心こめて焼かれるパウンドケーキ、さぞや美味しいに違いない。
1964年新潟県生まれ。学習院大学卒業後、出版社の編集者を経て、ノンフィクションライターに。スポーツ、人物ルポルタ―ジュ、事件取材など幅広く執筆活動を行っている。著書に、『音羽「お受験」殺人』、『精子提供―父親を知らない子どもたち』、『一冊の本をあなたに―3・11絵本プロジェクトいわての物語』、『慶應幼稚舎の流儀』、『100歳の秘訣』、『鏡の中のいわさきちひろ』など。