まさに“呪われた”としかいいようがない惨状

そんな国民の不安を象徴するように開会当日は雲の多い日だった。そのため航空自衛隊のブルーインパルスが空に描こうとした五輪マークは雲と重なってはっきり見えなかった。

1964年の東京五輪開会日は快晴で、空にくっきり五輪のマークが浮かんでいたことを思い出した。

夜8時から始まった開会式も、前回とは比べものにならない薄っぺらなものに見えたのも、直前まで不祥事が続出したためであろう。

開会式の演出を指揮する元電通マン・佐々木宏が、タレントの渡辺直美を侮辱する演出プランを出していたことが発覚して辞任。

開会式直前に、式の作曲を担当していた小山田圭吾の「障害者イジメ」が明るみに出て辞任に追い込まれた。さらにショーディレクターを務める元お笑い芸人・小林賢太郎の「ユダヤ人差別発言」が報じられ解任と、まさに“呪われた”としかいいようがない惨状で、組織委の中からも「開会式は中止すべきだ」という声が上がったのである。

開会式中継に抜擢されたNHKの和久田麻由子の声も心なしか沈んで聞こえた。

オリンピック広場
写真=iStock.com/Ryosei Watanabe
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経済団体トップもスポンサー陣も出席しなかった

唯一といってもいいのではないか。オールド野球ファンを歓喜させたのは、長嶋茂雄(85)が王貞治、松井秀喜と聖火ランナーとして現れたときだった。

長嶋もこの日を楽しみに、昨年秋から過酷なリハビリに取り組んでいたそうだ。足取りはおぼつかないが、左手でトーチを掲げる立姿は現役時代を彷彿とさせるほどカッコよかった。

亡くなった長嶋の妻は、前回の東京五輪のコンパニオンで美しい人だった。巨人軍の9連覇は翌年から始まった。

開会式の前日、天皇はバッハらIOC関係者19人と面会した。だが事前に報じられていた通り、開会宣言に「祝う」という言葉はなく、「記念する」に変更された。

各国首脳の数はリオ五輪の半分。経団連、経済同友会、日本商工会議所の経済3団体のトップ全員も出席を見合わせた。

最高位のスポンサーも、トヨタ自動車、パナソニック、味の素、P&G、NTT、NEC、富士通、TOTO、日本郵政、JR東日本が、社長ら経営幹部たちは出席せず、トヨタは国内のテレビCMまで放送しないことにした。

全米に放映権を持つNBCが7月24日に明らかにしたところ、開会式のアメリカの視聴者は約1670万人だったという。これは1988年のソウル五輪を下回り、過去33年で最低だったそうである。