日本の国土は約7割が森林だ。しかし、国産木材の自給率は3割ほどにとどまる。『森林で日本は蘇る 林業の瓦解を食い止めよ』(新潮新書)を出した慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科の白井裕子准教授は「高い価格で取引されてもおかしくない木までもが、燃料用に叩き売られている。このままでは日本の森林が危ない」という――。
森に積み重なった丸太
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高い木が売れなくなった

丸太は品質によってA、B、C、D材に分けられる。A材は製材に、B材は集成材やCLT(Cross-Laminated-Timber)、合板の材料になる。

CLTと集成材は似た製品である。集成材は、切り分けた木材の繊維の方向を「同じ向き」にそろえて接着して作るのに対し、CLTは、切り分けた木材の繊維の方向を交互に「直交」させ、接着して作る。最近、海外から入ってきたものである。

合板は、大根を桂剥かつらむきする要領で、木の外側から薄い板を切り取り、それによりできた薄い板(ベニア)を、その繊維方向を交互に直交させて重ね、接着剤で貼り合わせて作る。ベニアは正確に言うと合板ではなく、それを構成する薄い板の方である。もちろん集成材や合板もなくてはならない建築材料だ。

C材はチップ用などである。D材は林地残材、要するにこれまではそのまま山に置いてきた資源で、今なら再生可能エネルギーの燃料用である。

木材などを燃料にしてエネルギーを作るバイオマスプラントで用いられる。補足すると、一般的にはエネルギーを作るのに使うバイオマスには、建設現場で出る廃材、生ゴミ、家畜排泄物などもある。ただし、以下、バイオマスは木由来の有機物として話を進める。

高品質な木材ほどピンチ

価格は当然、A材が一番高く、順に値段が下がる。

【図表1】原木とその用途(イメージ)
【図表1】原木とその用途(イメージ)(出所=「林野庁施策説明資料」)

木1本の大きさには限度があり、また個体差もあり、材質も均一ではない。集成材やCLT、合板は、個々バラツキのある木の性質を平準化し、自然の木では難しい長さや幅の製品を作り出す。また立木からA材ばかり取れるわけではない、B材もC材も使う先があるのは重要である。しかし今の日本林業の問題はA材が売れないことである。増えているのは、B以下の需要ばかり。

実はこのA材の製材を得意とするのが各地にあった中小の製材所である。しかし、これが激減している。背景には国が大規模化、集約化を進めたことがある。むろん大規模化には良い面もある。B材にあたる集成材やCLT、合板などの製材は、大型工場に軍配が上がる。

懸念されるのは、本来A材として売るべき丸太も、B材として売らざるを得ない状況が発生していることだ。同様にB材をC材で、C材をD材で、という具合に値段が下がり、用材になるはずの丸太が、そのままバイオマスのエネルギープラントに流れ出している。

バイオマスのプラントでは、残ったD材を消費するのが本来の姿である。バイオマスの再生可能エネルギー利用は、これまで売れなかった木の残りを使うことに意味がある。しかしもっと高く売るべき丸太まで消費し始め、丸太全体の価格が下がってきた地域もある。ある県庁の担当者は「まずいことになった」ともらしていた。