「大変な時代が来た」宮大工の嘆き

以下は、知人の還暦を過ぎたある宮大工から聞いた話である。彼が「大変な時代が来た」と言って教えてくれた。

原木市場に木材を買い付けに行ったら、建築用材となるはずの丸太が、トラックごとバイオマスプラントへ直行するのを見たそうだ。政策を決めた側は、「用材になるはずの丸太が、バイオマスプラントに運ばれるなんてことはあり得ない」と言う。

しかし紙の上のルールで現実を縛ることはできない。用材となるべき丸太がバイオマスプラントへ運ばれていく。各地の現場は、それを目の当たりにしている。

バイオマス燃料のイメージ
写真=iStock.com/claudiio Doenitz
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なぜ丸太のバイオマスプラント直行が業界で問題視されるのか。木は魚のように身からアラまで、無駄なく使うことで資源全体の価値を上げる。こういう利用方法をカスケード利用と呼ぶ。簡単に言えば、木を適材適所に使い分け、資源を無駄なく、すべて使っていくことだ。

木の良い所から建築や家具の材料に使い、見た目の悪い木は、建築でも人の目につかない所に使ったりする。そして少々曲がっていたりして、必要な長さが取れないものは、集成材やCLT、合板を構成する材料等にする。最後に、もう形を取ることができない残りを、紙の原料やエネルギー源に使う。燃料にして燃やす木も、カスケード利用の中に位置付けられていることが大前提である。

A、B、C、D材でいうD材のように伐り倒した後、山中に置きっぱなしにしていた木などをバイオマスに回すなら意味がある。木1本の、そして山林全体の価値を上げてくれる、このような使い方ならば、有意義である。

しかしD材より上質の木材を燃やし始め、これまでB材、C材を使っていた業種と取り合いになっている地域がある。それどころか実態としては、A材まで手が伸びている。

高品質の木材も、安価な再エネ燃料に……

先ほど説明したとおり、木の単価は、家具や建築用材が一番高く、次第に下がっていく。粉々にする木が一番安い。刺身でも十分に美味しい魚を、濃い味付けが必要なアラ同等の安い値段で叩き売っていることになる。

せっかくの建築用材を粉々にする燃料として叩き売れば、一時的に現金は稼げるかもしれない、建築用材の需要がないからという人もいる。しかし、それでは今をしのげたとして、山林も山村も疲弊に向かい、将来への持続性は得られない。

用材となる木は、植えるにも、育てるにも、伐り出すにも技能がいる。きちんと用材として売れれば、育てた技術や山林にも正当な対価が払われる。山の麓に住む人々の仕事と家族の生活が守られる。それで次の世代の木を山に植えることができる。このサイクルが回れば、林業や製材業が将来へと発展していく。

しかしバイオマスに使う木は粉々にするのだから、質は問わず、取引価格は安い。バイオマス利用だけでは、再造林などあり得ない。どこの木を、どう伐り出そうと、コストが安いのが一番。このような価格帯の低い木ばかりの流通量が増えれば、木材価格全体が下がり始める。