僕の中では、1990年代後半ぐらいから漫画やアニメといったジャパニーズポップカルチャーが世界のファッションとかアートシーンでも注目され始めたという認識があって。その中でも、アーティストの村上隆さんとハイブランドとのコラボレーションがすごく象徴的でした。2002年にはパリのカルティエ財団現代美術館において村上さんの大規模個展が開催され、それを機に、マーク・ジェイコブスが当時クリエイティブディレクターを務めていたルイ・ヴィトンでコラボしたという流れを目の当たりにしていました。

それまで日本のポップカルチャーはオタクの世界観というか、もっとアンダーグラウンド。ある意味、カウンターカルチャーであってメジャーではなかったんです。そのような中で、ルイ・ヴィトンが村上さんを起用するっていうのは、日本のポップカルチャーがアートを通してある意味でメジャー化したということだと解釈しました。この一連の流れを読み解く作業が僕にとっての勉強法なのです。

ものごとの文脈が把握できていれば、本質が見えてくる

02年当時は、まだ時代の最先端になっただけで、マスブランドが何かを仕掛けるには時期が早すぎました。しかし06年の秋頃にはだいぶそれも浸透していたので、ユニクロのブランディングでは、感度の高いニューヨークのソーホー地区にグローバル旗艦店をオープンし、片仮名で「ユニクロ」とデザインされたロゴマークを考案しました。実際、アメリカ人に話を聞いてみると、アルファベットの「UNIQLO」よりも片仮名の「ユニクロ」をモチーフにしたロゴのほうがめちゃくちゃカッコいいという声が多かったんですね。日本語は読めないけど、形として素晴らしいと。もちろんこうした好意的なリアクションはすべて計算どおりでした。

片仮名のロゴはエッジが効きすぎてさすがの柳井正社長でも選ばないのではと佐藤氏は思っていた。しかし、数多のロゴ案の中から柳井社長が選んだのが片仮名。柳井社長の感覚の鋭さと想像力の深さに改めて感激したという。
写真=Rodrigo Reyes Marin/AFLO
片仮名のロゴはエッジが効きすぎてさすがの柳井正社長でも選ばないのではと佐藤氏は思っていた。しかし、数多のロゴ案の中から柳井社長が選んだのが片仮名。柳井社長の感覚の鋭さと想像力の深さに改めて感激したという。

当時も今も、日本発のグローバルブランドで片仮名のロゴを作るところなどありません。片仮名は日本ではどちらかというと野暮ったくてダサいというイメージをいだかれてしまうから、自然とアルファベットが主流となります。しかし、海外の先端都市の中で日本文化が置かれた文脈を理解し、それを自分なりにも解釈していた僕の目には、片仮名のほうがむしろブランディング上効果的だと見えていました。

そして、まずは海外から片仮名ロゴを使用し始めて、ユニクロのグローバルな成功の象徴として片仮名ロゴを逆輸入することで、日本人にとってもカッコよく見えるようになるという設計を当初から想定しています。これは5年くらいの時間軸で考えていました。繰り返しますが、ものごとの文脈が把握できていれば、本質が見えてくるので、数年がかりの計画を成功させることも雲を摑むような話ではなくなってきます。