中国の「泥臭い生活空間」を垣間見れるライブコマース

一方こんな光景も。ライブコマースで眼鏡を販売する深センの眼鏡企業「普莱斯眼鏡」は、スタッフが社内の配信部屋からメガネのラインアップ情報を発信しつつ、メガネを買いたい視聴者から質問が来たら丁寧なやりとりをし注文を受け付けている。

同社には配信部屋が複数用意され、各ライブコマースサービス向けにスタッフをおいて配信。注文を受けたら2時間で製品を完成させスピーディに配送する。

中国で普及したライブコマースアプリを利用すると、格差社会中国の様々な光景が数限りなく見られる。ライブコマースは解釈のしかたによっては、「覚えておきたい最新中国ビジネス」であり「中国ECトレンド」である。

また一方でライブコマースアプリをだらだらとみていると、以前のいかにもなECサイトでは感じなかった、「泥臭い生活空間」そのものの中国を、スマートフォンやタブレットで見ることができる。

「ジャパネットたかた」のようなECサービスとも言えるが、むしろ中国のリアルショップがそのままウェブ上に移ってきたようなものだ。不本意にも新型コロナウイルスの影響で長く住んでいた中国に行けていない筆者にとっては、懐かしくも胡散臭い風景がそこにあった。

ところで中国のライブコマースが普及した背景についてだが、各所に書かれているので簡単にまとめておこう。

コロナ禍をきっかけに急速に普及

2020年の年始に中国で新型コロナウイルスが感染拡大し、感染地域を中心に人々の動きが制限された。

特に武漢がある湖北省で感染が拡大していったが、それ以外の地域においても各住民に極力外出させないよう、都市において「小区」と呼ばれるマンション団地の入口で出入りを制限し、農村においても各村に通じる道を封じ検問所を設置した。

人々は家や庭で待機するしかなく、百貨店をはじめ各店舗も客足が途絶えたため商品を売りようがない。そこで注目されたのが、コロナ以前にも公開されていたライブコマースのサービスだ。

このサービスによって、コロナ禍における商品の売買が促進されていった。さらに、中国における新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いてきた2020年6月と11月に行われた2大ネットセールにおいてもライブコマースは注目され、一気に普及して今に至る……と、こんな感じである。

ライブコマースでさくらんぼを直販する農家
ライブコマースでさくらんぼを直販する農家(筆者提供)

中国の調査会社「iiMedia Research」によれば、ライブコマース企業市場規模は、2019年の4338億元(約7兆円)から2020年には9610億元(約16兆円)と前年比2倍以上の成長を記録した。(※1)

ライブコマースが普及したことにより、中国のネットビジネスでは様々な変化が起きた。アリババ、テンセント、バイトダンスなどの大手がライブコマースで競合するようになったのだ。

ライブコマースに合わせた専用ディスプレーや、外国語にリアルタイム翻訳できるサービスなどが開発され、CGを活用したVTuverが配信する試みも行われた。

また、安心安全を求める消費者と、農作物を売りたい農家、それに農村の経済をITで改善していきたい政府と事例を作りたいIT企業によって、農村がライブコマースで農作物を売るようになった。ライブコマース人気に合わせて新技術が登場したわけだ。

(※1)https://www.iimedia.cn/c1061/78301.html