投資先企業から問題解決の手法が学べる

私自身、こういった発想を投資先企業から学んでいます。

例えば、ラショナルという、ドイツの業務用厨房機器メーカーがあります。ラショナルが提供している「コンビスチーマー」という製品は、蒸気と熱風を自動制御する特殊なオーブンで、焼く、蒸すといった加熱調理工程を代わりにこなしてくれます。ユーザーであるレストランやホテルのシェフは、タッチパネルの操作一つで、様々な料理を同時に全自動で作ることができます。

ラショナルのオーブンは「キッチンのベンツ」と呼ばれており、1台100万円以上もする高価なものです。競合企業の製品は2~3割安く売られているケースもありますが、ラショナルは実に世界シェア50%以上を獲得しています。それにはどんな秘密があるのでしょうか?

実は、食材の仕入れから盛り付けに至る調理工程の中で、加熱工程は特に時間と手間がかかる割に、最終的に料理を食べる人には違いが分かりにくい工程です(もちろん、シェフに一定以上の技術水準があることが前提です)。つまり、レストランにとっては、かかる「コスト」と提供する「価値」が見合っていない工程なのです。

ラショナルはコンビスチーマーのパイオニアとして、蒸気と熱風をち密に制御する技術や自動洗浄など顧客の手間を減らす機能の開発、世界中の様々なレシピへの対応などを蓄積してきました。

顧客はラショナルのオーブンを1台入れるだけで、一定の技術を持つシェフを一人雇うのと同等の効果を得られます。加えて、エネルギーを効率的に使うことによる水光熱費の削減、調理の失敗による食材ロスの削減にもつながります。

「労働者2.0」を目指そう

要は、ラショナルは、オーブンを売るのではなく、顧客の「問題解決」を売っているのです。これを「バリュー・プロポジション」と言います。顧客はオーブンに支払う価格以上のリターンを得られるため、世界中で飛ぶように売れるのです。

ラショナルのバリュー・プロポジション
出所=ラショナル社HPを基にNVIC作成

「自分は○○業界だから、オーブンの話をされても関係ない」と思った方は、「労働者1.0」的発想から抜けられていません。

私が言いたのは、ビジネスにおいて顧客の抱える問題を真に解決するためには、顧客のビジネスモデルや収益構造を熟知しなければいけないということです。これは全てのビジネスに当てはまる話で、業界は関係ありません。それを考える際に、世界中の強い企業へ投資をすることで素晴らしいヒントを得ることができるのです。

このように、自らのビジネスマインドを高め、組織に所属していたとしても主体的・能動的に働く人々のことを、私は「労働者2.0」と呼んでいます。

労働者2.0
出所=NVIC作成