中国の工場におけるストライキが日系企業を悩ませている。なぜ日系ばかり標的にされるのか。その意外な背景と今後の対策について、現地の専門家らに聞いた。
効果が出ている企業の防衛策とは
では、防衛策はあるのか。久保田氏は「企業内に純粋に従業員の利益を代表する組織として『経営発展委員会』というようなものを設置するべきだ」とクライアント企業にアドバイスし、効果を得ているという。中国の労組に相当する「工会」は、共産党が労働者を管理するための末端組織であり労働者から信頼を得ていない。南海本田のストでも、工会はストをやめさせようと従業員と衝突、けが人が出る騒ぎが5月31日に発生した。南海本田の工場側に対する要求には、賃上げだけでなく既存工会の解散と、従業員利益を代表する民主的な工会の新設が含まれていた。
「まともな労組がないため、従業員側の要求を吸い上げることもできず、経営方針を説明することもできない。ルールある交渉の場をつくることが必要だ」(久保田氏)。ただし、工会の二重設置は共産党が労働者を代表するという建前に反するため許されておらず、あくまで工会とは違う名目を主張しなくてはならない。優秀な中国人幹部、中国人工場長の抜擢を行い、経営側と従業員の意思疎通を図ることも重要だという。
一方、日系企業のパートナー弁護士、広東省信利盛達法律事務所の陳偉雄弁護士は「年1回の賃金交渉制度の導入など社内制度の整備に努める一方で、スト組織者には圧力をかけるなど、アメとムチの使い分けが必要」という。
しかし、対策を講じたとしても、久保田氏は「賃上げ要求は今後避けられない」という。中国は来年、5カ年計画で所得倍増計画を盛り込むが「沿海部の日系工場の中には今後5年間に4倍前後の賃上げを迫られるところも出てくるだろう」と見る。進出企業にとって厳しい時代の到来だ。が、久保田氏はこうも訴える。
「中国以上の可能性がある市場がどこにあるか。中国の歴史・文化・習慣をよく研究しリスク回避に努めてほしい」。
JETRO(日本貿易振興機構)広州事務所の横田光弘所長は、「内陸部の低賃金地域に移動していくという手もあるが、部品工場と一体となっている自動車産業のような大所帯は簡単に移動できない。日本でも1960~70年代に労使紛争があった。その経験をふまえて、中国で今起きていることを直視し、労使協調に導くしかない」という。
これは中国が「世界の工場」から「世界の市場」に変化する際に避けられない洗礼か。痛みに耐えた企業だけが、今後、巨大市場の果実を収穫できるのだろう。