だが、中国では誘拐が多く、ふだんの通学はもちろん、習い事にも1人で行かせるのは危険なので、送迎はセットなのだ。北京市に住む知り合いの女性は、2人の息子(小学生と中学生)の送迎のため、クルマを2台買ったと話していた。息子たちの登下校や習い事の時間帯が異なるため、夫と手分けして送り迎えをするために必要に迫られたそうだ。日本でも子どもに習い事をさせるには、親も一緒に学ばなければならないことがあるが、中国には、中国特有の事情がある。

学校でコンピュータを使うことを学ぶ小学生のグループ
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なぜここまでお金をかけるのか

それにしても、中国では受験競争が日本以上に激しく、子どもは睡眠時間を削って勉強し、学習塾にも通っているのに、なぜ「勉強以外」の習い事もそんなにさせるのだろうか?

杭州の女性はその理由をこう語る。

「私が子どもだった20年前、中国では、習い事を教えてくれる教室なんて全然なかったんです。私はピアノを弾けるようになりたかったけれど、一般の人が気軽に通える教室は、少なくとも私の町にはなかったし、そもそも家にピアノがある友だちもいなかった。ピアノやヴァイオリンだけでなく、スポーツもそうですが、中国では以前、ごく一部の才能を見いだされた逸材だけが、特別な教育を受けることができたんです。

だけど、今は違う。ごく一般の人でもピアノやヴァイオリンを習えるような環境がやっと整ってきた。習い事が特別なものではなく、一般化してきたということですね。私のように、自分ができなかったからこそ、子どもには自分の分もいろいろなことを習わせてあげたいという気持ちの親は多いと思います」

日本ではあまり知られていないが、この女性がいうように、中国では、政府主導で芸術やスポーツ分野で才能のある人だけに英才教育を行ってきた。

日本ではオリンピックに出場するような才能のある選手でも、もともとは高校時代に部活でやっていたからとか、自分が好きで習っていて、だんだん頭角を現したなどのケースが多いが、中国では幼い頃に身体能力が明らかに他の子どもと異なるなど、才能を見いだされた人だけが、政府の支援によって特別な教育を受けることができた。