副作用も分からず服用するのは賭けでしかない

これは私の個人的な推測ですが、加齢に伴って体内のNADが減少するのは、がんに対抗する防護反応かもしれません。

NADが体によい働きしかしないのであれば、体は年齢に関係なくどんどんNADを合成すればいいのです。私たちの体がそうしないのは、何か理由があってのことではないでしょうか。

たとえば、がんのリスクが小さい若いうちはNADレベルを高く保ち、がんのリスクが大きくなってきた年齢に達すると、がん細胞に利用されないよう少しずつNADレベルを低くするよう調節している、とか。

ただ、少なくともマウスではNMNががんを引き起こすなんて現象は観察されていませんので、私の取り越し苦労かもしれません。

ですが、当然のことながらマウスとヒトは違う生き物です。本当に大丈夫かどうかは、NMNサプリを摂取した人たちを長期観察して、どのようながんがどれぐらい発症するのか数えてみないとわかりません。

アンチエイジングの効果があるほうに賭けて、NMNサプリを摂取したい人は自由にそうすればいいですが、私はやめておきます。もちろん、家族や知り合いにも摂取することを勧めません。

適切な条件のもとで臨床試験をするべき

それにしても、ヒトに対する効果も害もよくわからないままNMNサプリが販売され、消費されている現状はたいへんにもったいないと思います。

NMNを摂取している人の中から、がんにかかったり、亡くなったりする人も必ず出てきますが、それを数えるシステムはなく、NMNのせいなのか偶然なのかわかりません。何人がどれぐらいNMNを摂取しているかのデータもありません。

このままではNMNの効果や害がどれぐらいあるのかわからないままです。

遺伝子工学の概念
写真=iStock.com/metamorworks
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ビジネスの観点から言えば、臨床試験で有効性や安全性が確認されなくても、「いい感じの宣伝文句」で多くの人たちを釣ってたくさんサプリメントを売るのが最適解でしょう。

ですが、医学の観点からはきちんと臨床試験で効果を検証するのが望ましいです。よい結果が得られればより多くの人に使ってもらえますし、効果がないとわかればそれ以上無駄金を使わなくても済みます。

NMNを研究している専門家たちも、効果に期待はしつつもヒトへの応用は今後の研究が必要という認識を示しています。