「最後は人、人を育てにゃあかん」
斉藤は初対面は不愛想な様子に見える。声をかけにくいタイプなのだが、話し出すと止まらない。最初は標準語でしゃべっていたけれど、熱が入ると三河弁になる。
「保全は職人芸でもあるわけ。たとえば、兆候管理という言葉があります。これは、刃物が折れる前に兆候を見極めて設備を止めるといったようなことです。AIやIoTでデータを取る。しかしそのデータをどう処理するかは人です。折れる限界の閾値を決めるのも最後は人なんです。
河合(満)のおやじも常に最後は人、人を育てにゃあかん! と言う。僕らが教育に熱心なのは、現場の組み立ての人にも教育せなならんからですよ。教育して全員保全ができるようになれば、保全は本当に難しい設備だけ専門保全としてやれば良い。オペレーターが保全もできる、そんな人材を育てる事で、会社の競争力にも貢献できるのです」
本部長自ら部署の全社員を労ってくれる
「そう思うと、コロナ禍の中で今後の製造現場の働き方も人材育成も変えていく必要性もあることを強く感じました。そして我々保全マンは感謝しなくてはいけない事がある。それは河合おやじと朝倉本部長が、支援していただいた全部署の皆さんの労を労うため、親睦会を開催してくれる事です。
嬉しさの爆発は親睦会ですよ。おやじからは『いつも頑張ってくれてありがとう』とみんなに声をかける。二次会になると、僕らがおごることになっとる。だいたい、一升くらいは絶対持って行く。高い酒はよう持っていかんけど。あとは、おやじにおごらせる。保全を見守ってくれていてありがたい。だから苦しい時があっても頑張れるとみんなは言う」
支援から帰った後の保全マンの親睦会は爆発的らしい。あくまで、聞いた話ではあるが。お店の出入り禁止になることもあるとかないとか……。
※この連載は『トヨタの危機管理』(プレジデント社)として2020年12月21日に刊行予定です。