企業が公開している財務諸表だけを精読し、問題企業を発見。その会社の株を“カラ売り”して巨額の富を稼ぎ出す究極の財務分析者「カラ売り屋」。その知られざる実像とは――。

 

「財務分析の鬼才」と呼ばれる男

米国には、財務諸表を徹底的に読み込んで、問題企業を探し出し、その会社の株を売って儲ける「究極の財務分析者」というべき人々がいる。「カラ売り屋」(ショート・セラー)と呼ばれる人々だ。

「カラ売り」とは、自分が保有していない株券をブローカー経由で借り、市場で売ることである。株の値段が下がったところで、市場から同じ銘柄を買い戻し、借りた株を返す。当初にカラ売りした値段より、後で買い戻した値段が低ければ、利益が出る。

米国では、1900年代初頭、伝説的投資家のジェシー・リバモアが、ユニオン・パシフィック鉄道をカラ売りしたり、1929年の世界恐慌の際にもカラ売りで、莫大な儲けを挙げた。

ウォール街に本格的なカラ売り屋が登場したのは、1980年代初頭といわれる。彼らは顧客から資金を集めてファンドを運営し、値下がりしそうな株を探し出してきてカラ売りする。問題企業を探し出す最大の手がかりは、企業が発行している財務諸表である。カラ売りは、下手をするとインサイダー取引規制にひっかかる可能性があるので、非公開情報(関係者の話など)をもとにやると危険である。一方、企業が公開している財務諸表から、かなりのことが読み取れ、これだけで十分問題企業を探し出せると多くのカラ売り屋が述べている。

カラ売り屋の存在を世に知らしめた顕著な成功例が、2001年12月に破綻した米国のエネルギー会社、エンロンに対するカラ売りである。

エンロンに最初に目をつけたのは、「財務分析の鬼才」ジェームズ・チェイノスだった。