気象庁は、ウグイスやセミなどを観測する「動物季節観測」を完全に廃止すると発表した。植物を含めても約9割の観測をなくすという大幅な削減だ。気象予報士の森田正光氏は「観測はできるだけ長く行わなければ意味がない。効率重視で先人の積み重ねを捨てていいのか」と訴える——。
観測対象から外れるモズ
撮影=高橋和也
観測対象から外れるモズ

予算規模は54年間で3分の1に激減

私は気象解説者としての仕事を50年ほどしているが、50年前の当時から気象庁の予算はコーヒー予算と言われていた。昭和30年代(人口1億人の頃)、喫茶店のコーヒーが50円の時に予算は約50億円、一人当たりに換算するとコーヒー1杯の値段と同じというのが言葉の由来だ。1966年(昭和41)の予算は約88億円で、やはりコーヒー並み。国家予算は約4兆3000億円なので、気象庁予算はほぼ0.2%だった。

そして今年度は、595億円。国民一人当たりにすると約500円だ。相変わらずコーヒー予算のままで、昔より圧倒的に作業量は増えている。さらに驚くのは、国家予算、約100兆円との比率である。なんと0.06%で、1966年の0.2%から比べると3分の1の激減である。

そんな「お金のない」気象庁が、11月10日「生物季節観測の見直し」を発表した。扱いはそれほど大きくなかったので、つい見逃してしまいそうだが実はこれは観測継続の重要性からすると、将来に禍根を残す恐れがあると私は考えている。

動植物57種のうち、9割の観測を廃止へ

生物季節観測とは、身近な動物(昆虫を含む)を観測する“動物季節観測”と植物を観測する“植物季節観測”の2種類があり、季節の進み具合や長期的な気候の変動を把握するための重要な観測である。

現在行われている生物季節観測は、サクラやウメなど植物34種とアブラゼミやウグイスなど動物23種。ところが今回の見直しでは植物6種を残すだけで、動物季節観測は完全廃止。これまでの57種からすると約9割がなくなってしまうのだ。

見直し自体はこれまでにも何度かあり、時代によって観測種目が変わることはやむを得ない。かつて中央気象台(気象庁の前身)では、人々との生活に関わる現象、例えば火鉢や炬燵こたつを多くの人がいつ使用するかなどを、生活季節観測として行っていたが、さすがに時代の変化になじめず、その後1953年1月から現在のような生物季節観測が開始されたという経緯もある。

だから今回の見直しも仕方がないとする向きもある。しかし問題は来年1月から、すべての動物季節観測を完全に廃止してしまうという事だ。これは「見直し」ではなく、限りなく「廃止」に近いだろう。