費用についても誤解が大きい。保険会社は、先進医療の中でも重粒子線治療や陽子線治療ばかり取り上げて、ことさら負担の重さを強調するが、200万円を超えるのは前出の3つのみ。それ以外はほとんどが50万円以下で、なかには1万円程度の治療もある。すべてが高額というわけではない。
また、先進医療は夢の治療であるようなイメージを持つ人が増えているが、命にかかわる問題なので深刻だ。先述したように、先進医療は保険診療に収載するかどうかを評価している段階の治療だ。センチネルリンパ節生検のように効果が認められて保険が適用されるものもあれば、治療効果が認められず先進医療から外れていくものもある。
先進医療を受けなくても、日本の標準治療は高い医療水準を誇っており、保険診療で最適水準の医療を提供することになっている。03年3月に閣議決定された「医療保険制度体系及び診療報酬体系に関する基本方針」でも、「必要かつ十分な医療を確保しつつ、患者の視点から質が高く最適の医療が効率的に提供される」ことが明確に打ち出されている。そのため、有効性と安全性が確認された治療は、順次、保険が適用されていく。
日本では心臓移植も、抗がん剤治療も保険診療で受けられる。福岡ソフトバンクホークスの王貞治監督(当時)が胃がんの手術を受けるとき、「先端の治療をお願いしたい」といって有名になった腹腔鏡手術も保険診療だ。「公的医療保険では最新の治療が受けられない」と思っているとしたら、それはまったくの誤解である。
このように先進医療を受ける確率や保険診療の実態を知ったうえで、それでも先進医療特約付きの医療保険に入りたいのであれば、万一の保障として加入するのもいいだろう。ただし、医療は不確実なものだ。高い治療費を払ったからといって必ず病気が治るわけではない。先進医療特約に加入するより、いざ病気になったときに質のよい情報に接し、自分は何を基準にどのような判断をするのかということを死生観とともに考えておくことが大切だ。
ちなみに、先進医療のうち約7割は、がんの治療が占めている。先進医療を受けたときの治療費が心配なら、医療保険ではなくがん保険に加入して先進医療特約を付けるほうが合理的だ。
※すべて雑誌掲載当時