高度な技術よりも重要なポイント

デンマークの例から私たちが学べることは、電子政府を進めるに当たっては、必ずしもその国に高度な技術を開発する力が求められるわけではない、ということです。その代わりにデンマークが持っているのは、国民の個人データを扱う政府への信頼感、そして他人のデータを盗んで悪用しないであろうという社会への信頼感です。

自宅のテーブルでノートパソコンを使用し作業している
写真=iStock.com/Ole Schwander
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このことは、1位のデンマークのみならず、4位フィンランド、6位スウェーデンといった北欧諸国がランキングの上位に名前を連ねていることと無関係ではありません。

図表2は、ISSP(国際社会調査プログラム)の2017年調査において「あなたは、他人と接するときには、相手の人を信頼してよいと思いますか。それとも、用心したほうがよいと思いますか。」という質問に対して、「いつでも、信頼してよい」「たいてい、信頼してよい」と答えた人の割合ですが、ここでも北欧諸国が上位を占めているのは、決して無関係ではないと思います。またこのことは、北欧諸国における高福祉高負担のシステムにも通ずるところがあります。強権的な政治が行われているわけではないのに税率が高いのは、政府が税金を公正に使うという信頼に基づいていると考えられるからです。

人は信頼できると思う人の割合

国民の政府への信頼がなければ第一段階止まり

さて現在、菅政権は平井卓也デジタル改革相や河野太郎行政改革・規制改革相を中心として、精力的に政府の電子化に取り組んでいます。とかく前例主義に陥りがちな行政組織を変えていくには相当なエネルギーが必要とは思いますが、曲がりなりにも大臣が指揮命令権を持っているわけですから、行政組織の電子化は、今後それなりに進んでいくものと予想されます。

けれども行政組織の電子化は、政府の電子化の第1段階に過ぎません。政府の電子化を行政サービスの利便性につなげるためには、やはり行政サービスの利用者である国民が、政府そして社会をどれだけ信頼できるかというのが、やがて大きな課題となります。

デンマークにおける政府の電子化の事例で、私がとりわけ重要だと思うのは、その利用を国民に義務付けているところです。具体的に言うと、デンマークでは全ての市民に対して電子署名システム「NemID」の使用を義務付けています。また15歳以上の全てのデンマーク市民に対して、障がいなど特別な免除要件に当てはまらない限り、政府との連絡ツールとなるデジタルポストの利用を義務付けています。この結果、2018年においては国民の91.1%がこのデジタルポストを使用し、1億4000万通のメールが送受信されています。