あえてお客様とは会話をしないという「サービス」

「スタッフの人気」でお客様に来ていただくような店にはしたくない

町の喫茶店というと、マスターが常連客と親しげに会話をしているイメージを持っている方もおられるだろう。しかし、バッカスを始めた当初から私はあえてそれをしなかった。今日初めてお見えになったお客様に配慮したいと思ったからである。

宗次徳二『独断 宗次流 商いの基本』(プレジデント社)
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もちろん喫茶店は地域密着の店だから、常連客は大切にしたい。そこで専用カップにコーヒーをいれるプランを考えたのである。それがどんどん売れて、150種類ほどのコーヒーカップが棚にずらりと並んだ。常連さんがお見えになると、顔を見ただけでカップに手が伸びるようになった。だから、顔はしっかり覚えていたのだが、話しかけられてもせいぜい2往復の会話をするぐらいで、それ以上は話さないようにした。もちろん、常に感謝の笑顔は欠かさなかったから、不愛想であったわけでは全くない。

ココイチを始めてからはそれを徹底して、「お客様の名前は覚えなくていい」とスタッフには言っていた。常連のお客様は、スタッフから名前を呼ばれれば嬉しいと思う。だが私は、店長をはじめスタッフの人気でお客様に来ていただくような店にはしたくなかったのだ。

それより分け隔てのないサービスでどなたにも満足いただくような店にしたかったし、常連のお客様と同じかそれ以上に、今日初めてのお客様を大事にしたいと思ったのである。

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