なぜトンカツやコロッケではなく「唐揚げ」なのか
だが、揚げ物ならトンカツやコロッケもある。唐揚げが他の食材よりも優位性がある理由を小倉氏に聞いてみた。
「食べるという視点では、鶏肉に比べて、豚肉や牛肉は繊維質が多くかみ応えがあります。しっかりかまなくてはならず、スルスルと食べにくい。それに比べて鶏肉は食べやすく、アミノ酸が豊富で疲労回復にもよいとされていますし価格も手頃。総菜としての唐揚げは個数単位やグラムでも買え、いろんな意味で手を出しやすいのです」
安価で低脂肪という魅力も評価され、鶏肉需要は高まっている。牛肉・豚肉・鶏肉の3大食肉のうち、2012年には長年トップだった豚肉を抜き、鶏肉がトップとなった。
「2013年にセブン-イレブンが発売した『サラダチキン』も鶏肉人気にさらに火をつけました。もともと岩手県の食材メーカー・アマタケが開発した商品で、名称も同社が元祖ですが、最大手のコンビニの参入で注目度が高まったのです。いずれも使用部位は胸肉で、パサパサしている特徴を工夫して食べやすくしています」(稲田氏)
個人の好みによるが、胸肉の唐揚げはあまり人気が出ないという。ジューシーさではモモ肉のほうが優れているからだ。
「唐揚げの味付けも変わってきました。7~8年前は、にんにくしょうゆに加えて、ペッパー味も人気で、ジャンクフード的な要素もあった。それが4~5年前から味が上品になり家庭に入り込みやすくなりました。プレーンの味以外にバリエーションもあり、買う側が味を選ぶ楽しみも出ています」(同)
原価率が圧倒的に低く、入店初日から調理できる
これまで中小が主体だった「唐揚げ専門店」に、近年は大手チェーンが参入する。前述の都内の商店街で、最近目立つのも大手だ。
最初は人気店の進出から始まった。唐揚げ文化が根づき「中津からあげ」で知られる大分県中津市に本店がある「元祖!中津からあげ『もり山』」、同県・宇佐市が本店の「大分からあげ専門店 とりあん」などが東京都内に専門店を開いたのが2009年だった。
「唐揚げ専門店における“中興の祖”のような存在が『からやま』(101店舗)です。運営母体はアークランドサービスHD(ホールディングス)で、2014年に神奈川県相模原市に開店して以来、FC(フランチャイズチェーン)店主体で拡大してきました。近年は、すかいらーくグループの『から好し』(91店舗)やワタミ系の『から揚げの天才』(57店舗)が拡大しています」(稲田氏)
※店舗数はいずれも2020年10月21日現在。
※初出時、「総本家もり山」としていましたが、店名は「元祖!中津からあげ『もり山』」の間違いでした。訂正します。(10月26日13時30分追記)