「抜擢人事」で女性に清水ジャンプさせてみる

【白河】女性管理職をさらに増やすために、制度化している事柄はありますか? 他社でも導入できそうな制度があったら教えてください。

【及川】当社では「抜擢人事」を制度化しています。これは、昇進試験の合否にかかわらず、能力のある人をトップダウンで昇進させるものです。女性は男性に比べてライフイベントがネックになることも多いですし、清水の舞台から飛び降りる“清水ジャンプ”も苦手な傾向がありますから、会社が「まずはやってみなはれ」と背中を押すのです(笑)。

責任はこっちが持つからとりあえずやってみて、それでダメなら元のポジションに戻ればいいと。初期の女性課長は、この制度で着任した人がほとんどです。早ければ30代前半で、もちろん女性だけでなく男性も抜擢してきました。

会議のほとんどがオンラインに。
会議のほとんどがオンラインに。

【白河】女性の場合、会社の“背中押し”が必要なのはよくわかります。実際、経営トップの方から「女性に役職を打診してもなりたくないと言われる」という声を聞くことがよくあります。

【及川】それは女性にやる気がないわけではなくて、自分が役職になった姿をイメージできないだけだと思います。また、家庭や育児など、何かを犠牲にしてまで頑張りたくないという思いもあるでしょう。私生活をかなぐり捨てて仕事を頑張っている先輩を見たら、「私は彼女みたいになれない」とあきらめてしまうはず。「なりたくない」じゃなくて「なれない」と思うわけです。日本には、いまだに夕飯は母親がつくるものという風潮もありますから、そのせいで両立に苦しむ女性も少なくありません。

でも、今は多様性の時代です。仕事や家庭への姿勢は人それぞれでいい。女性社員には「私にはできない」と思い込まず、まずはやってから折り合いをつけてみたらと伝えています。ちなみに当社では、この抜擢人事で昇進した後、疲労困憊して降格を希望した人はいません。

社員の10%が産休・育休中

【白河】女性は真面目な傾向がありますから、完璧な管理職にならなければと思い込みがちですよね。そうじゃなくて多様でいいと。ただ、産休や育休、その後の時短勤務などを選択する女性が増えると、トップとしては経営負担も気になってきませんか?

【及川】本社では今、社員の10%程度が産休・育休中です。時短勤務の人も少なくありませんが、もともとフレックス制を導入しているので、それほど大きなひずみは起きていません。百貨店の販売職には、欠員が出たらすぐ駆けつけてくれるサポート人員がいますし、本社でも人事部が産休・育休後の働き方について丁寧にアドバイスし、時短勤務からの復帰を後押ししています。