夫が妻のキャリアを支えるのは当たり前

【白河】もともと働き方が柔軟で、代替要員もしっかり確保されているのですね。女性活躍を推進するには、その辺りが大きなポイントになりそうですね。

【及川】特にフレックスや在宅勤務は必須だと思います。在宅勤務は、当社では一昨年から整備を始め、コロナ禍をきっかけに全面的に導入しました。私自身、育児中にいちばんムダだと思っていたのが通勤時間なんですよ(笑)。働き方がさらに柔軟になり、ママワーカーがより活躍しやすい環境が整ったと思っています。今後も、本人たちが自分で働き方をデザインできる環境、「こう働きたい」と声に出せる環境をつくっていくつもりです。

【白河】男性の育休についてはどうお考えでしょうか。男性の働き方を変えてでも女性活躍を進めようというお気持ちはありますか?

【及川】男性の働き方を変えるというよりも、社会人として、また家族として、夫が妻のキャリアを支えるのは当然のことです。「子どもが生まれたら働き方を変えるのは女性のほう」という前提自体に違和感を覚えますね。男性育休については、他の経営者の方々から「うちの男性社員を他社の妻のために休ませるなんておかしい」という意見も聞きます。私としては、なぜそれが跳ね返って自社の女性社員のためになると考えないのか、本当に不思議です。

社員は全員が埋蔵金

【白河】おっしゃるとおりですね。女性社員たちの活躍は、経営にも力を与えていますか?

【及川】もちろんです。私にとって、経営の最大の課題は「社員の力をいかに最大化するか」です。社長という立場になってみて、会社の成長は私一人の力では果たせないのだと痛感しました。現場で働く全員に、どれだけ内発的動機で活躍してもらえるかが重要なのです。その意味では、社員は全員が埋蔵金。宝の持ち腐れにならないよう、しっかり力を引き出していくのが私の務めだと思っています。

【白河】社員の力の最大化のために、ほかにどんな変革をお考えでしょうか。

【及川】内発的動機を高めてもらうため、ポーラがSDGsにどう取り組むか、どう社会に貢献していくかを社内に発信するとともに、役員と社員の「対話の会」を始めました。また、コロナ禍をきっかけに現場への権限移譲を進め、今では現場発のアイデアをスピーディーに実現できる環境が整いつつあります。アンコンシャスバイアスの撤廃にも引き続き取り組み、ポーラのダイバーシティについて社内で議論を深めていくつもりです。

【白河】社員の活躍やダイバーシティに対して、強い思いをお持ちなのですね。人は「女性」「管理職」といったステレオタイプな枠組みに押し込められると、本来の力を発揮できないと言われています。及川さんのお話からは、そうした枠組みを変えていくんだという覚悟を感じました。どうもありがとうございました。

構成=辻村洋子

白河 桃子(しらかわ・とうこ)
相模女子大学大学院特任教授、女性活躍ジャーナリスト

1961年生まれ。「働き方改革実現会議」など政府の政策策定に参画。婚活、妊活の提唱者。著書に『働かないおじさんが御社をダメにする』(PHP研究所)など多数。

及川 美紀(おいかわ・みき)
ポーラ 代表取締役社長

1991年、東京女子大学卒業後、ポーラ化粧品本舗(現ポーラ)入社。まもなく販売会社に出向し、埼玉エリアマネージャー、商品企画部長を歴任後、2012年に執行役員、14年に取締役就任。20年より現職。