このご時世、どの出版社も雑誌が売れずに悩んでいるというのに、バカ売れしている女性誌がある。宝島社の「sweet」「InRed」「spring」の3大女性誌だ。人気の秘密は、バッグやポーチなどの豪華な付録。たとえば今年、「Cher(シェル)」(若い女性に人気のブランド)の文字とハートマークをあしらった布製バッグを持った女性を頻繁に見かけなかっただろうか。実はこれも「sweet」の付録だ。この付録がきっかけで、Cherの商品そのものの人気に火がついたという。「sweet」誌の渡辺佳代子編集長(38)は「付録で売る」ことに対してこう言い切る。
「よく“モノで釣っている”みたいに言われるんですけど、本を買う習慣のない人たちに買ってもらうには、本屋に来てもらうところからスタートしなきゃいけない。あまりカッコつけてもいられない」
同社では付録のことを「ブランドアイテム」と呼び、必ずブランドのロゴを入れている。付録作製にあたってはブランドに使用料を払うのか?
「ブランドとお金のやりとりは一切発生しません。最近は先方から“広告宣伝費を払うから付録にしてくれ”とオファーをいただくことも多い。魅力的ですが、でもそれをしちゃいけないぞって危険信号が点滅するんです」(渡辺編集長)
付録のアイテムは編集部が「読者のほしがるもの」は何かを考えて決める。そこに金銭的なしがらみがあると、雑誌の方向性がずれる危険があるのだ。しかしこれだけ豪華な付録をつけたら採算が合わないのではないか?
「部数が多いおかげで、単価が下がっています」
こう語るのは、同社マーケティング本部の桜田圭子さん(34)。現在、3誌の実売部数は、女性誌ではダントツの数字だ。
出版社は「よいものさえつくっていれば売れる」と考えがちだが、桜田さんはそこにマーケティングの視点を持ち込んだ。「表紙まわりのデザインの工夫や定価のつけ方、プロモーション次第でいくらでも売れるようになるはず」という。
桜田さんは2009年春から全国の書店員をバスツアーに招待するという試みを始めた。第1回は印刷会社の工場で書店員と一緒に雑誌ができるまでの過程を見学。第2回はお台場や六本木、原宿のファッション店「FOREVER21」などを、雑誌のロゴでラッピングしたバスで巡った。桜田さんいわく、「マーケティングの究極の目的はセールスを不要にすること」。実際、バスツアー後は書店員たちが雑誌に愛着を持ち、書店で大々的に陳列してもらえるようになった。
渡辺編集長は「誌面づくりの方針は変わらない」と語るが、「でも目標はクリアしないと気がすまない性格」と自己分析する。どのような戦略が展開されるか楽しみだ。