誰もが口にする「免疫力」という言葉。しかし、そのシステムに対する理解度は浅い。免疫の「イロハ」から学んでいこう。

意外に知られていない抗原と抗体の違い

新型コロナウイルスの発生で注目される「免疫力」。人は経験的に、病に1度罹ると2度目は罹らなかったり、軽い症状で済むことを知っている。

免疫研究の第一人者である相模原病院臨床研究センターの鈴木隆二室長は「紀元前5世紀のギリシャ・カルタゴ戦争の戦記であるトゥキュディデスの『戦史』のなかでは、現在の「免疫」を表す『2度なし』という意味の言葉がペストに対して使われていました」という。しかし、その基本的なメカニズムについて知らない人が少なくないようである。

そこでまず、免疫を司る血液中の白血球に属する免疫細胞のメーンプレイヤーの顔ぶれから見ていこう。白血球そのものは、骨髄のなかにある造血幹細胞で作られ、血液やリンパ液に乗って体内を巡回している。風邪をひいたりした際にはれ上がってしまう「リンパ節」は、免疫細胞の活動基地の役割を果たしているのだ。

「好中球」は感染によって侵入した病原体を捕食して死滅させる。好中球のなかにはさまざまな酵素が含まれていて、病原体を分解・処理する。「樹状細胞」は病原体を貪食して、後述する「T細胞」に病原体の破片を「抗原」として提示する役割を担う。ただし、好中球のように病原体を分解・処理する能力は低い。

「単球」は血液内に存在する大型細胞で、組織内に移動すると「マクロファージ」に変化する。そしてマクロファージは樹状細胞と同じように、貪食した抗原をT細胞に提示する。その一方で、病原体をのみ込んで消化・処理する高い能力を持っており、この点で樹状細胞とは一線を画す。

そしてT細胞だが、「ヘルパーT細胞」「細胞傷害性T細胞」「制御性T細胞」に分かれる。抗原提示を受けたヘルパーT細胞は、「B細胞」に働きかけて病原体を無力化するタンパク質の一種である「抗体」の産生を促す。この仕組みについては後ほど詳しく説明する。細胞傷害性T細胞は、病原体に感染した細胞を攻撃し、かつては「キラー細胞」とも呼ばれていた。残る制御性T細胞は、逆にB細胞による抗体の産生を抑制させ、アレルギーなどの免疫反応を抑える役割を担っている。