有給休暇の取得率が低いことも同じロジックで説明できます。従業員が多ければ、誰かが休んでもみんなで調整してカバーが可能です。しかし3~4人で同じことをやるのは難しい。結果、有休を消化せずに出勤し続けることになる。事実、日本の有給休暇の取得日数を見れば、規模が小さくなればなるほど、低下します。企業文化だけが原因ではないのです。

人のリソースの問題だけではありません。お金だってそうです。仮に同じ粗利益でも、売り上げが小さい中小企業では研究開発に注ぎ込める額が小さくなります。研究開発費をかけずにイノベーションを起こせるのでしょうか。日本からイノベーションが生まれないのはクリエーティビティに欠けているからだとよく言われますが、別に日本人の資質のせいではありません。企業という器の大きさのせいです。

3000人の労働者がいたとします。これを1000人ずつの大企業3社に分けたAパターンと、1000人の大企業1社と2人の小規模事業者1000社に分けたBパターンがあって、より効率的に働けて、より大きな付加価値を生み出せるのはどちらか。当然、経営資源が分散されているBより、経営資源が集約されて最適な形で活用できるAです。ところが、日本はBパターンで、中小企業の数が多すぎる。生産性の低さをはじめとした弊害が生じるのはあたりまえです。

データが示す地獄の未来図

「そんなに中小企業をいじめるな」「別に生産性が低くたっていいじゃないか」という声が聞こえてきそうですね。でも、生産性が低いままで本当にやっていけると思いますか。

日本の出生率や社会保障費、生産性が現在の水準のまま進むと、現役世代の社会保障負担率はどんどん膨らみます。生産年齢人口が減って高齢者率が高まるので、当然です。

では、現役世代の負担はどれくらい増えるのでしょうか。15年、64歳以下の人の収入に対する社会保障負担率は36.8%でしたが、60年は64.1%になります。20年生まれた子どもたちが40歳になるころには、頑張ってお給料を稼いでも、約3分の2が社会保障費に消えます(図③参照)。とても耐えられるものではありません。

これから出生率を上げるのは難しく、うまくいっても効果が出るのはずいぶん先です。また高齢者が増えて今以上に政治的な力を持つことを考えれば、社会保障費を削減するというのも非現実的です。となれば、残りは生産性を高めてGDPを維持あるいは増やすしかありません。それ以外に社会を維持する方法はないのです。

社会保障負担が給与に占める比率