DM片手に通常の6倍のお客さんが来店

すると、投函するやいなや、お客さんは反応した。来店客が増え、しかもそのDMを持って来るのだ。その数、通常の6倍。結果、家飲み需要が増えたとは言われるが、飲食店への卸もあるため、店全体としてはコロナの悪影響があった3月だった。しかし、このDMで提案した商品群に関しては、日本酒131%、ワイン122%、リキュール346%と大幅な伸びとなった。

これが意味するところは何だろうか? 今回のDMは、強力に集客を仕掛けたものでもなく、凝った文面でもない。今回の店主の“はからい”は、お客さんの不安な気持ちに寄り添うことだった。なぜこの“はからい”がこれほど人を動かすのだろうか?

その読み解きのために、異なる業種での、同様の2つの例を紹介しよう。

ひとつ目は、岡山でキャンプ場経営とキャンプ用品通信販売を行う「おおさネイチャークラブ」からの報告だ。同社では、「コロナ不安の今だからこそお伝えしたいコト」と題し、社長からのメッセージ文を、メルマガを通じキャンプ場と通販それぞれの顧客に配信。同時にブログにアップ、フェイスブックにも投稿した。

その内容は次のようなものだ。冒頭の社長のあいさつに続き、「連日コロナウイルスの報道で皆さんも不安な毎日を過ごされているかと思います」とコロナのことにしばらく触れ、お客さんの不安な気持ちを代弁しつつ、そこから「我々はアウトドアを愛する仲間である」「自然の中で過ごす術を知っている」こと、だからこそ、「自然というものは思い通りにいかないこともあるが、それでも我々は臨機応変に対応し、その場を『乗り切れる』ことを知っている」等々の、まさにキャンプをたしなんでいるという共通項を持ったお客さんらにぴったりのメッセージを発信したのである。

これには、多くのお客さんが反応した。この内容に共感したという声が多数だが、なかには「いつもはメルマガなど読まずにスルーしていたのですが、今回のものはとても元気が出る内容だった。お礼申し上げます」「3年以上も前の購入にもかかわらずメールをいただき、考えさせられたので返信させていただきました」などの声もあった。

オンライン隆盛の中あえて「自家製ハガキ」を郵送した会社

2つ目は、サプリメントの製造・通信販売を行っている「株式会社ファインエイド」でのものだ。こちらは、オンラインでビジネスが完結する通販会社ではあるが、今回、長く利用いただいているお客さんに、あえてアナログな自家製ハガキを郵送した。

宛名面は、藤田屋酒店同様に、「新型コロナウイルスの影響で日々強まる自粛ムード」とコロナの話題から入り、「こんなときこそ楽しんでいただきたいと思い、昨年から薬剤師がたしなんでおります己書(おのれしょ)でカレンダーを作成してみました。(中略)ふとした瞬間にお地蔵様とともに“にこっ”としていただけると幸いです」とつづられたもの。裏面は、その己書によるほのぼのしたお地蔵さんの絵が描かれ、カレンダーにもなっているものだ。

提供=ファインエイド

これには、お客さんからの「お気遣いのハガキに感動!! 薬剤師さんからのカレンダー付ハガキ! お地蔵様の絵に癒やされました」という返信をはじめ、多くの方からの感謝の声があった。

同社ではこの期間、その他同様のさまざまなことを行った結果、5月、定期購入に切り替えるお客さんの数が過去最高となった。このような商品の通販では、定期購入客の割合を増やすことが重要だが、今回はそのための促進キャンペーンを行ったわけではない。それにもかかわらず、である。