来る訪日客に向けて、日本もコロナ対策の「見える化」を

香港のベンチャーキャピタル、DEEP KNOWLEDGE GROUPが集計した「新型コロナウイルス安全度ランキング」(4月12日更新)によると、2位のドイツを除きトップ10がすべてアジア太平洋地域で日本は9位だ。世界的にみても、まずこれらの地域での観光や相互渡航が解禁されることが期待される。

新型コロナウイルス安全度ランキング
出展:DEEP KNOWLEDGE GROUP「TOP-40 COVID-19 SAFETY RANKING

先んじて国内旅行が解禁された中国で、人が集まる観光施設で入場時の実名登録や予約制による人数制限、ソーシャル・ディスタンスの徹底といった、5月1~5日の労働節連休には各観光地で実施された施策は、すでに彼らの間でスタンダードとなった。5月11日に3カ月半ぶりの営業開始となった上海ディズニーランドも、入場者を通常の2割に限定して受け付けた予約は3分で完売し、場内では列の十分な間隔を義務付け、アトラクションも半分を空席で運行した。

今後、中国人旅行者を迎える際に、日本の人気観光施設でそれらの対策がなされない場合、対応レベルは中国以下と評価される。現金のやり取り不要なキャッシュレス決済は中国より日本が遅れており、アリペイやウィーチャットペイといった電子決済の導入も、当然のごとく求められる対応項目と考えるべきだろう。

日本の観光業界でも、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会、日本旅館協会、全日本シティホテル連盟は「宿泊施設における新型コロナウイルス対応ガイドライン」を公表した。館内の場所ごとや接客場面ごとに取るべき対応が記されているが、5月14日の第1版では、カード決済について言及はあるものの、スマートフォン決済や予約時の事前決済を推奨する記述はまだない。外国人旅行者に向けた対応は、第2版以降で追加されていくだろう。

日本の緩い行動制限は訪日客に不安を与える可能性も

日本のホスピタリティ産業が、顧客の見えない所まで徹底して行う衛生対応は、新型コロナウイルスからの営業再開時にも十分な感染対策となっているだろう。一方、お客さまを迎えるにはそれを当然のことと心得る事業者が、「このような対応をちゃんと行っています」とアピールすることは日常あまりない。

しかし今後、顧客は行き先や宿泊先を検討する段階で、衛生を最優先に気にして選ぶか選ばないかを決めるとしたら、顧客が見ていないところも丁寧にやるという美学だけでなく、「これだけやっています」と到着以前にインターネット予約検討段階で声高に発することが必要な時代になった。

加えて来訪時にも、入り口に消毒液があるか、受付ではスタッフがマスクや手袋を着用しているか、精算は非接触決済になっているかといった顧客に見える部分の備えとともに、顧客にマスクの着用や列に並ぶ際の距離、一定の人数以上は入場させないといった制約や行動の義務付けを要求することが、この施設は対策が徹底しているという安心感につながるだろう。お客さまに「できません」と答えることを極力良しとしないサービス業も、安全安心のためには顧客に「No」を言えるようになる態度変容が求められる。

海外では都市封鎖=ロックダウンで厳しい外出規制、スマートフォン位置情報による感染者接触可能性の個人特定や、陽性の際の厳格な隔離など、政府が主導する感染予防措置を人々は耐え忍んできた。香港では空港到着時にPCR検査の後、結果が出るまで1回しか解錠できないルームキーを渡され入室したホテルの部屋から一歩も出られず、陰性で帰宅が許された場合も14日間無断外出を検知するリストバンドの装着が義務付けられる。

そのようにして安全な社会生活とその先に自由な行動を手に入れた彼らは、段階的に旅行が緩和される中でも、感染第2波を予防するために、旅行者にも必要な行動制約が求められるのは当然と考えるだろう。そんな現実に直面し続けた外国人旅行者が、日本の旅行先で何も行動要求や制限をされなければ拍子抜けして、かえって対策が不十分なのではと不安を覚える結果にもなるだろう。