スクラムを1日1000回組む慶応ラグビー部のすごさ

慶応の運動部のすごいところは、圧倒的な練習量で他校を凌駕するという哲学があることだ。とりわけすさまじいのがラグビー部である。夏の山梨県で行われる山中湖合宿では、しょっちゅう救急車がやってくると言われる。1980年代前半、大西鐵之祐氏が監督をしていた頃の早稲田のラグビーは、軽量フォワードがボールを奪ってバックス展開するスピードを持ち味としていた。これに対して慶応は、そこまで器用な選手がいなかったので、スクラムを強化した。

当時、慶応の山中湖合宿を見に行った人によると「週に1回、朝から晩までスクラムをやる日があった。その日は1000回のスクラムをやっていた。普通は300回くらいが限界。疲労した選手はばたっと倒れ、ぴくりとも動かなくなる。それをリヤカーで合宿所の前まで運び、頭から大量の水をかけて、カップヌードルのようにふやけた状態で布団に運んで寝かせていた」。こうした猛練習で、慶応の運動部は早稲田に対抗する競技力を維持してきたのである。逆に早稲田からすれば、学生数も運動部員の数も少なく、スポーツ推薦制度や体育系の学部もない慶応に負けるのは恥ずかしいことで、一層奮起した。

トップ級4人以外は体育学専修と一般学部の選手でタスキをつないだ

ただ早稲田もスポーツ推薦枠があるからといって、優秀な選手をずらりとそろえられるわけではない。各部3人程度の割り当てしかなく、青山学院をはじめとする箱根駅伝の有力校が駅伝だけで各校10~15人のスポーツ推薦枠を持っているのに比べれば、非常に少ない。

AO入試という道もあるが、「スポーツ推薦は無理だけれど、AO入試を受けてください。ただ合格は確約できません」と言って勧誘しても、有力選手はスポーツ推薦で合格を約束してくれる他大学に行ってしまう。スポーツ奨学金(授業料免除)や月10万円程度の栄養費支給制度もない。そのため筆者がいた頃の早稲田の箱根駅伝チームも、瀬古利彦氏というウルトラ級が1人、金井豊氏(ロサンゼルス五輪10000m7位)ら区間賞を狙える選手が3人くらい、残りは教育学部体育専修と一般学部(政経、法、理工等)の学生がタスキをつないでいた。