強く咳をさせる変異体ほどより多く生き残れる
幸いこのふたつのコロナウイルスが侵入しなかった日本は、新型コロナウイルスに対する危機感が当初、薄かった可能性がある。
新型コロナウイルスの遺伝子を調べると、やはりコウモリに由来することがわかった。とてもよく似た遺伝子配列を持つコロナウイルスがセンザンコウ(外見はアルマジロに似る)で見つかっている。この動物が関与して人に感染した可能性がある。
繰り返すが、ウイルスは絶えず変異している。他の種類の生物にホスト(宿主)を乗り換えやすい性質を持った変異体のみが、新しい感染経路を通じて増殖できる。
感染した人に激しく咳をさせることのできる変異を持ったウイルスは、結果として自分の遺伝子をたくさん拡散させることができ、世界に自分の子孫を多く残すはずだ。人に咳をさせるのは、ウイルス自体が他のホストに自分を感染させるべく人の行動を操作したためである。結果として強く咳をさせる変異体ほどより多く生き残れる。
進化的に有利なウイルスの生存戦略
このようなウイルスの拡散と増殖の仕組みは、なにも新しい生物学の話ではない。ダーウィンが進化の仕組みとして考えた「自然選択」で説明することができる。
コロナウイルスの性質には変異があり、その変異が遺伝によって世代を経て受け継がれ、うまく生き延びることができるものとそうでないものがいる。生き延びるものが選択された結果、世の中に広くはびこるという仕組みだ。
ウイルスの目線で考えると、結果として生き延びることのできた性質をもつウイルスが広がりつつあるのが現状である。
新型に似たSARSはこれほどまでには広く自分の子孫を残せず、突如、終息した。では、なぜ新型コロナウイルスはここまで一気に世界中に分布を広げ、増殖することができたのか? 新型コロナウイルスがSARSと大きく異なる点のひとつは、体内での感染様式の仕組みだ。
SARSは熱や咳の症状が見られた罹患者のみがウイルスを拡散する能力を持つ。これはSARSウイルスが肺でのみ増えるという性質を持つことに依る。
ところが新型コロナウイルスには、軽症や無症状の患者も多いことがわかってきた。コロナウイルスは肺のほかに、咽頭でも増殖するのだ。これが新型コロナウイルスに無発病感染者や、発症前の保菌者にも感染力を持たせるこのウイルスの性質である。このように性質が変異した新型コロナウイルスは、当然、瞬く間に人から人へと感染できたのだ。
すでに新型コロナウイルスにも世界でいくつかのタイプのあることが遺伝子調査で明らかにされている。世界に拡大しつつある新型ウイルスにさらなる変異が起きつつあると予想できる。
※編集部註:初出時、新型コロナウイルスの調査について「DNA」と表記していましたが、正しくは「遺伝子」でした。訂正します。(4月21日21時40分追記)