マスクが会社から配布されなくなった

コロナウイルスがごみ清掃員に与える最大の影響は「マスク不足」だ。一緒に働く収集車の運転手が嘆いていた。

「俺たちは朝一の仕事だから、朝からマスク買いに薬屋さんに並ぶわけにもいかねぇもんな。夕方に仕事終わってから行ったって、手に入ることなんてねぇんだよな」

ごみ清掃の仕事にとってマスクは必需品だ。ほこりを避けるだけでなく、老人ホームから出るおむつのごみには感染症の不安があるし、繁華街のごみにはどんな物が入っているかわからないので、できるだけマスクを着用する。

ましてや、連日報道され続けているコロナウイルスの脅威を知りながら、不特定多数のごみを回収する業務となればなおさらだ。回収中、破けるごみ袋は少なくない。飛び出したごみから使用済みのマスクがむき出しになっていれば、よからぬ菌が付着していないだろうかと不安になる。

嘆いていた運転手の家のマスクはもうすぐ底をつくという。以前は希望者には会社からマスクを渡していたが、この騒ぎでマスクの入手が困難になり、配布できないようになった。

ごみ清掃会社は点呼を受ける際、熱を測ることを義務付け、対処している。現時点ではコロナウイルスにかかった清掃員はまだいない。

ごみ清掃員が危惧する食品ロスの悪化

3月25日、オーバーシュートを防ぐために東京都が週末の外出自粛を要請する発表をおこなった。その翌日にはスーパーでの食料品の買い占めが起きた。勤め人の多くが仕事終わりに食料を買いに行って、ほとんどが売り切れ状態で驚いていたと聞く。ごみ清掃員の仲間たちも、夕食の買い出しに行った頃には、スーパーの棚には何もない状態であった。

この状況で、われわれごみ清掃員がこれから起きるのではないかと恐れていることがある。食品ロスだ。

買い占めたはいいが食べきれなかったといって、まだまだ食べられるものがごみとして捨てられるのではないか。コロナ以前からの話ではあるが、食べられるものを平然と捨てる人たちが世の中には大勢いる。

蓄えたものの、騒ぎがおさまれば家にあるのが邪魔に思えてきて、手つかずの状態で数多くの食べ物が捨てられる可能性は低くない。手のつけられていないボンレスハム、お中元で送られてきたであろうメロン、新米が出たあとの古米、大量の未開封のレトルトカレーなどをごみとして回収してきた筆者にとっては、考え過ぎだとは思えない。