「女性が管理職になってくれない問題」をどう解決するか

【白河】「女性の仕事と家庭の“両立”まではできたが、その先の“活躍”がうまくいかない」と嘆く経営者はたくさんいらっしゃいます。「考えられることはやりつくしたが、それでも女性が管理職になってくれない」というわけです。花王では、どのように壁を突破したのでしょうか。

【図表1】花王グループの女性管理職比率の推移

【澤田】私たちを含め、多くの日本企業はこれまで、日本人だけ、男性だけという比較的均一な環境で仕事をしてきました。「多様な個性を活かす」と言っても、これまでの枠組みの中に異なる人材を入れると、浮いてしまったり、個性を消してしまったりすることになる可能性があります。例えば女性を例にとると、20、30年前であれば、男性ばかりのチームに女性が1人、2人入っても、当時の女性に期待されていたようなステレオタイプ通りに、ほかの人のサポート役にならざるを得ないことが多かった。必ずしもその女性の「個性」が活かされていたわけではなかったと思います。

花王 澤田道隆社長

それでも、まずは「混ぜる」ところから始めなくてはなりません。混ぜないと、化学反応は起きませんから。そして混ぜた場合に、女性がはじき出されないようにしないといけません。男性ばかりで作り上げてきた既存のルールを変え、結婚したり、子どもが生まれたりした場合でも、女性がはじき出されることなく仕事を続けられるようにする。それが第一歩でした。

ようやく「寿退社」という言葉もほとんど聞かれなくなり、女性が混ざってもはじき出されることがなくなってきました。今は、真に女性一人ひとりの個性を“活かす”ことを考えなくてはなりません。それが次の大きなステップだと考えています。

ラインリーダーに女性を登用したら現場に意外な変化が

【白河】混ぜないと化学反応は起きない! 本当にそうですね。女性が一人だけだと同化すると言われています。具体的に、そうした化学反応が起きた事例というのはありますか?

【澤田】例えば、生産現場は、かつてはほとんどが男性でしたが、女性がかなり増えました。山形県酒田市にある酒田工場で新しいオムツ製造ラインを入れたときに、4~5人のチームのラインリーダーに女性を登用しました。するとそのラインでは、これまで「当たり前」とされてきた環境に新しい視点が入り、使われる道具の並べ方についても「もっとこうした方が使い勝手がいい」と改善が進んだ。また、重い資材を運ぶ際にも、サポートするための器具を使うようになり、年を重ねて体力が落ちたり、腰痛に悩んだりしていた男性社員なども含め、全員にとって働きやすい職場になりました。

こうした活動は、生産性や品質の向上につながります。そして、それを目の当たりにしたほかの社員は、「うちでもやってみよう」ということになる。生産現場での女性の登用に懐疑的だった人たちの考え方も変わります。

【白河】女性活躍というのは、女性だけにメリットがある話ではなく、男性も女性も、みんなが働きやすくなることにつながると言われますが、酒田工場の事例はそのお手本になるようなエピソードですね。