「学力に自信のある」女子だけを引き寄せる入試問題

では、なぜ桜蔭の入試には受験者が殺到しないのか。これは入試問題に理由がある。

たとえば、桜蔭の国語の模範解答を見てみよう(桜蔭が自ら模範解答を作成・公開した2015年度のもの)。著作権の関係上、詳細を見せることはできないが、50分の制限時間に対してかなりの記述量が求められている。模範解答による総記述字数(漢字や抜き出し、記号を除く)をカウントすると1163字にのぼり、題材となる文章も大人向けの難解なものがほとんどだ。

算数もやっかいな問題が並ぶ。大問4つと問題数は少ないが、子供たちが塾で勉強する類型的な問題はあまり出されず、ひとひねりされた難問であることが多い。また、突き抜けた算数の学力を求める有力男子校のように、女子校には珍しく「立体図形」が頻出する。

つまり、桜蔭に挑めるのは学力面で自他共に認める実力がある層のみなのである。実際、受験するのは各塾のエリート中のエリートばかり。1.7倍という実質倍率であっても、同校の入試は「狭き門」なのだ。

「勉強をする」のは桜蔭生にとって空気を吸うことと同じ

桜蔭生は超エリートであるのは確かだが、彼女たちの多くは「勉強が好きだ」と公言する者はいないという。わたしなりに解釈すれば、「勉強が好き」なのは桜蔭生にとって当たり前であり、ことさら口にすることでもないということではないか。取材をすると、彼女たちの知的好奇心はさまざまな分野に及んでいて驚く。

撮影=末木佐知

東大教養学部文科Ⅲ類1年生(取材当時)の卒業生はこう述懐する。

「勉強だけでなく、趣味などに熱中している人が多いです。マンガやアイドル、部活動などですかね。あと、文化祭企画委員として積極的に活動している人もいましたよ」

東大理学部3年生(取材当時)の卒業生はこう振り返る。

「真面目な人が多いですね。自分でコツコツ計画を立てて、それぞれが思い思いにやりたいことに取り組んでいます」

慶應義塾大学経済学部3年生(取材当時)の卒業生は、「わたしの学年だけかもしれませんが……」と前置きして、「個性的な子が多かったと思います」とこう切り出した。

「桜蔭には本当にいろんな人たちがいます。これが普通の学校だと、自分たちと性格が合わなかったり、空気の読めないような異端児だったり、いじめの対象になるじゃないですか。でも、桜蔭生はそれぞれ合う人たちでグループを形成して、その他のグループを排除するような雰囲気は一切なかった。世間では『空気の読めない子』と思われるような人たちも、そういう子たち同士で集まって、のびのびと学校生活を楽しんでいましたよ」