“新型うつ”は「一億総他責社会」の象徴

一方、休職中の“新型うつ”の社員も、しばしば被害者意識を抱いている。従来型うつの社員が休職すると、自分が休んでいるせいで職場に迷惑をかけていることをすまないと思い、必要以上に罪悪感を抱き、自分を責めることが多い。ところが、“新型うつ”の社員は、休職しても、罪悪感も自責感も抱かない。自分は会社、上司、同僚のせいでうつになったのだと、少なくとも本人は思い込んでいるのだから、これは当然だ。それどころか、被害者意識を募らせ、自分がうつになる原因を作った職場に復讐したいと思っていることさえある。

職場環境も人間関係もうつの原因になりうるので、自分の病気の原因を会社、上司、同僚などに求めることが100%間違っていると主張するつもりはない。ただ、職場環境や人間関係などの環境要因だけでうつになるわけではない。環境要因と素質、性格、考え方などの自分自身の要因の相互作用の結果うつになるのに、うつになった原因をすべて周囲に求めるのは、実に他責的だと思う。

こういう他責的な考え方に傾くのは、自分自身の問題を否認したいからであり、自己愛の影響による。したがって、“新型うつ”は「一億総他責社会」の象徴であり、時代の病といえよう。

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片田 珠美(かただ・たまみ)
精神科医

精神科医。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。人間・環境学博士(京都大学)。フランス政府給費留学生として、パリ第8大学精神分析学部で精神分析を学ぶ。著書に『他人を攻撃せずにはいられない人』(PHP新書)など。